現役の経済産業省キャリア官僚でありながら、自らのブログで自身の給与や官僚生活を赤裸々に告白し話題となった宇佐美典也氏。そして、宇佐美氏が経産省在籍時から親交を持ち、東芝でフラッシュメモリの開発に携わり、現在は中央大学理工学部教授としてSSDや次世代メモリの研究で世界に名を馳せる竹内健氏。宇佐美氏は経済産業省で、竹内氏は東芝で、良くも悪くも目立った存在だったという2人からどんな話が飛び出すのか。
第1回は、2人の出会いを中心に、官僚機構と民間企業がどのように関わっていくべきなのかを語ってもらった。連載は全4回。次回更新は11月30日(金)を予定。(構成/本多カツヒロ)

仕事の付き合いをきっかけに深めた関係性

竹内 私たちの交流は、ReRAM(抵抗変化型メモリ)という新型不揮発メモリ開発のための、官民共同プロジェクトを通して始まりました。当時の宇佐美さんは、経済産業省からNEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)に出向中で、プロジェクトをマネジメントする立場です。私はそのプロジェクトを研究者として受託する側で、いわばお金の出し手と受け手の関係ですね。

宇佐美 そうですね。そのプロジェクトはもともとエルピーダから経産省に持ち込まれたものでしたが、単に新しいメモリを開発するだけだと面白みがなくて、世界で勝負できる成果が出るとは思えなかったんです。一言で言えば、とてもサムスンに勝てる気がしませんでした。

 そこで、NEDO内で画策して、次世代メモリを活用した画期的なコンピューティング技術の開発に資金の1割程度をこっそり充てることにしたんです。そこに竹内先生が応募されました。あとでバレて、経済産業省から大目玉食らっちゃったんですけどね(笑)。でも結果を見ると、エルピーダが破綻したので、メモリ開発はどうなるかわからなくなってしまった一方、コンピューティング技術の開発は、先生のおかげで世界から注目される画期的な成果も上げられましたし、良かったと思っています。

竹内 健(たけうち・けん)
中央大学理工学部 電気電子情報通信工学科 教授。1967年東京都生まれ。93年、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修士課程修了。工学博士。同年、(株)東芝に入社し、フラッシュメモリの開発に携わる。2003年、スタンフォード大学ビジネススクール経営学修士課程修了(MBA)。帰国後は東芝フラッシュメモリ事業の製品開発のプロジェクトマネジメントや企業間交渉、マーケティングに従事。2007年、東芝を退社し、東京大学大学院工学系研究科准教授を経て、2012年4月からは中央大学理工学部教授。フラッシュメモリ、次世代メモリの研究・開発で世界的に知られる。著書に『世界で勝負する仕事術』(幻冬舎新書)がある。

竹内 あの時はそんな背景があったんですね。全然知りませんでした(笑)。

宇佐美 今だから明かせることです。だからあのプロジェクトは毎年の予算確保に苦戦をしていました(笑)。

竹内 宇佐美さんは官僚の立場なので、応募者を公正に審査して、採択しなければならない。だから、なかなか深くお付き合いをするのは難しくて、当初はあくまで仕事上のお付き合いでした。そういった裏の事情は私から見えませんでしたね。

宇佐美 数十億円単位の巨額の予算を扱う官僚の立場だと、癒着を疑われないように、プレーヤーの方々とはどうしても距離を置いてしまいがちなんです。企業や大学の方もそれを理解したうえで接してくるので、官民共同プロジェクトといっても、ほとんどの場合はプロジェクト運営上の表面的な関係だけで閉じてしまいます。

 ただ、竹内先生の場合、プロジェクト以外の勉強会やシンポジウムなどで尖った発言をしているのを拝見するうちに、「この人は熱い人だな」と個人的に興味がわいて徐々に交流を持つようになりました。半導体業界は保守的な業界だったので、竹内先生はかなり目立って見えたんです。

竹内 そういう意味では、表面的な仕事上のお付き合いから徐々に発展してきた関係です。最終的には、そのプロジェクトに限らず、宇佐美さんとは2、3のプロジェクトを一緒に検討することになりましたね。