第3回では、現状のマスメディアが抱える問題点、そして個人が情報発信する重要性を語ってもらった。最終回となる今回は、天下り問題の本質的な議論から始まり、経済産業省を離れた宇佐美氏のこれからへと話は及んだ。(構成/本多カツヒロ)
省内の退職勧奨は40代後半から始まる
中央大学理工学部 電気電子情報通信工学科 教授。1967年東京都生まれ。93年、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修士課程修了。工学博士。同年、(株)東芝に入社し、フラッシュメモリの開発に携わる。2003年、スタンフォード大学ビジネススクール経営学修士課程修了(MBA)。帰国後は東芝フラッシュメモリ事業の製品開発のプロジェクトマネジメントや企業間交渉、マーケティングに従事。2007年、東芝を退社し、東京大学大学院工学系研究科准教授を経て、2012年4月からは中央大学理工学部教授。フラッシュメモリ、次世代メモリの研究・開発で世界的に知られる。著書に『世界で勝負する仕事術』(幻冬舎新書)がある。
宇佐美 天下り問題に関して、「東大出て官庁に入るくらい『優秀』ならば自分で再就職先くらい見つければ良い」という意見があります。確かに、自分は上にいけないと割り切って転職活動をすれば、1年半もあれば再就職先は決まると思います。そういった状態で業務の中立性が保てるかは別の論点としてありますが。
問題は、自分は出世できると思っていた人が突然肩を叩かれたときです。突然無職になって自力で1年半も仕事探しをするのは、家族の生活も抱えるなかでは、経済的にも精神的にも苦しいでしょう。
民間企業でも肩叩きはあるかもしれませんが、国家公務員は転職活動を規制されていて、失業保険もない。それに、もし転職活動の自由を認めた場合は、課長クラスにもなれば多くの企業とつながりを持っているので、関係企業や団体との癒着が今よりもっと横行すると思います。天下りの議論をするときは、憲法上認められている権利の制限と、官僚が置かれている現実の生活や予測される行動パターンとのバランスを考える必要があると思います。今なされている議論はあまりにも一方的過ぎます。
竹内 何歳くらいから肩叩きが始まるのですか?
宇佐美 早い人で40代後半から50歳くらいですかね。ある日突然呼び出されて退官を告げられます。そこから2週間から1ヵ月くらいで去っていかなければいけません。
竹内 天下りを断って、経産省に居続ける人もいるのですか?
宇佐美 肩叩きにあった人も悪いことをしたわけではないので、日本の労働法制だといきなり解雇することは難しいです。だから居座ろうと思えば居座ることはできます。ただ、居座ると窓際部署に行かされますね。その後は、さらに何も仕事がない部署へ行かされて、辞めるまで干されるんです。