中国、台湾、香港――。両岸三地といわれる中華圏の芸能界が政治の渦にのみ込まれている。もともと芸能界は政治とは縁遠い世界だが、今や中華圏の芸能人は“踏み絵”を避けることができない。14億の市場を取るのか、それとも故郷のために闘うのか。中国、台湾、香港の芸能界に激震が走っている。(ジャーナリスト 姫田小夏)

ジャッキー・チェンの生きざまも
翻弄する中国政治

中国の政治は香港スターの生き様をも翻弄する中国の政治は香港スターの生き様をも翻弄する(著者提供)

 今年5月、日本でジャッキー・チェン主演のアクション映画『プロジェクトV』が公開された。中影(上海)國際文化傳媒など複数の制作会社が絡んだ中国映画で、世界を股に掛けたボディーガード・チームの奮闘を描く、見どころ満載のジャッキー・アクションではあった。しかし、1970~80年代に一世を風靡(ふうび)した往時の“香港のアクションスター”の姿は遠くかすむ。

「彼こそが中国のスターだ」と語る中国人ファンは少なくない。中国では成龍(チェン・ロン)の名前で活躍し、2010年に開催された上海万博では広報大使に任命され、2016年には中国共産党の国政助言機関である全国政治協商会議の委員に選ばれるなど、ジャッキーの軸足は確実に中国へのシフトを見せていた。

 2014年、麻薬を使用した疑いでジャッキーの息子が北京市警察当局に逮捕されたが、薬物犯罪に厳しいとされる中国で、わずか6カ月の懲役で済まされたことも、中国法曹界で大きな波紋を呼んだ。同時に、「この事件以来、成龍は中国共産党に頭が上がらなくなった」という噂も流れた。

 続いて今年6月には、香港ポップス界のスーパースター、デニス・ホーのドキュメンタリー映画「デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング」が日本で封切られた。この中では彼女のこれまでの音楽活動を軸に、自由と民主を守る闘いが描かれている。ホーもまた中国大陸で活動していた芸能人のひとりだが、2014年の雨傘運動に参加し逮捕されてからは、中国での仕事を打ち切られ、収入の8割を失ってしまった。その活動の軌跡は、ジャッキー・チェンとはまったく違う。

(“港独”指控下兰蔻取消何韵诗演唱引反弹 - BBC News 中文)

 両者とも香港の大スターだ。しかし、中国の政治は一人の人間の生きざままでも容赦なく翻弄(ほんろう)していることが見て取れる。