――投資家向けコラム「ハード・オン・ザ・ストリート」
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原油先物が一時マイナス価格をつけた歴史的瞬間から1年半が経過し、原油市場は正反対の状況にある。
2020年4月、ロシアとサウジアラビアの価格戦争で世界中に原油があふれて行き場を失ったのに続き、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によって石油需要が激減。原油価格は一時的にマイナス圏に沈んだ。つまり売り手が買い手にお金を払って原油を引き取ってもらわなくてはならない状況だ。
現在、その逆の力学が働いている。最たる懸念は米原油指標WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)の現物を受け渡す拠点であるオクラホマ州クッシングの原油在庫があまりにも低下していることだ。これ以上低下すれば、WTI先物価格を劇的に押し上げる可能性がある。昨年の供給過剰で、原油価格が想像を超える動きをしたばかりだが、はるか昔の思い出のようだ。
クッシングの原油在庫は、昨年5月初めに6540万バレルのピークをつけた。先週時点で2730万バレルまで減少し、クッシングの貯蔵タンクが通常の稼働を維持するのに必要な2000万バレルが徐々に迫っている。JPモルガン・チェースの先週のレポートによると、陸上石油タンクの世界的な中心地であるクッシングは、あと数週間で「事実上の在庫切れ」に陥る可能性があるという。
期近物の価格差拡大(現在、直近限月が最も高い)は、クッシングの原油在庫が実際にどん底になるかもしれないと市場が考えていることを示す。ペンタスロン・インベストメンツのマネージングパートナー、イリア・ブシュエフ氏はこう指摘する。WTI原油先物で直近の12月限は28日の取引で1バレル82.11ドル近辺と、1月限より1.15ドル高く、その差は1週間前の1.04ドルから拡大している。
2021年12月限と22年12月限の価格を比較すると、その差はさらに顕著となる。25日にスプレッド(価格差)は1バレル12.50ドルに達し、現在も10.48ドル前後ある。別の言い方をすれば、市場は今すぐ原油が欲しくてたまらず、受け渡しが1カ月早まるごとに1バレル約87セントの上乗せ価格を払うことをいとわない。ブシュエフ氏はこれを「スーパーバックワーデーション(極度の逆ざや)」と呼び、25日のスプレッドはWTI史上3番目の大きさだったと指摘。原油市場が「スーパーコンタンゴ(極度の順ざや)」と言われた昨年の状況とはまるで逆だ。昨年は、期先物の価格が期近物より大幅に高くなっていた。
JPモルガンもブシュエフ氏も、昨年の供給過剰で実際にはクッシングの貯蔵タンクが満杯にならなかったように、クッシングの原油在庫が実際に底を突く可能性は低いとみている。例えば、JPモルガンはリポートの中で、カナダからの原油流入が加速しているうえ、10-12月期に米国の産油量が増加する兆しがあると述べた。過去にクッシングの在庫が一時的に低下した際は、現物トレーダーが機敏に対応し、在庫不足の拠点に原油を振り向けた。さらに、WTI先物は国際的指標であるブレント原油よりわずかに安い水準にとどまるため、原油が国外に流出するのを抑えられるはずだ。とはいえ、クッシングの在庫がこれ以上減れば、価格がさらに上昇する可能性がある。
そうなった場合、痛みはないのだろうか。昨年のスーパーコンタンゴと一時的なマイナス価格により、人気の高い上場投資信託(ETF)「ユナイテッド・ステーツ・オイル・ファンド(USO)」など、原油先物の期近物を保有する複数のファンドが巨額の損失を出し、多くの個人投資家が打撃を受けた。現在、同じ戦略を取っていれば、同じ投資家に大きな利益をもたらすだろう。皮肉なことに、リスク軽減の目的でこれらのファンドに変更がなされたため、その利益は制限されている。それでもなおUSOは年初来で72%上昇し、WTI先物の期近物の指標を3.1ポイント上回っている。
金融市場の投資家にとっては快適なドライブになるかもしれない。一方、車のドライバーにとってはあまり幸運な旅ではなさそうだ。



