ポストコロナの新世界#11 消費税増税Photo:Bulgac, _human, egal/gettyimages

総選挙は与野党が「分配重視」を掲げてバラマキや減税を競う状況に陥り、財源の議論は深まらないままだった。減税で経済成長と格差是正、財政健全化の“トリレンマ”を克服できるのか。『ポストコロナの新世界』#11では、「消費税20%」を主張する京都大学大学院の諸富徹教授を直撃。増税で産業構造の変革や人への投資を進め、雇用や老後の安心を確保して所得を増やす戦略を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部特任編集委員 西井泰之)

成長戦略と分配の失敗が
「減税」が人々の心に響く状況を作った

――総選挙では与野党が給付金の支給など「分配重視」を唱える一方で、財源論議は深まりませんでした。とりわけ野党の消費税や所得税の減税の主張には、「票目当ての人気取り」との批判も出ました。

「消費税20%で所得を増やせ」京大教授が“寝た子を起こす”増税論を唱える理由もろとみ・とおる/1968年生まれ。93年同志社大卒、京都大大学院で経済博士号取得、横浜国立大助教授、京大准教授を経て2010年から現職。専門は環境経済学、財政学。著書に「環境税の理論と実際」「私たちはなぜ税金を納めるのか」。近著に「資本主義の新しい形」 Photo:Diamond

 期間限定としているものの、消費税も含めこれほどまでに野党がそろって減税を主張したことは例がありません。立憲民主党の場合、他の野党との共闘を実現するという政治的な思惑もあったようです。

 とはいえ、減税でしか勤労者の実質所得を上げられないという現実もあります。

 本来は生産性を上げて経済成長し、所得を上げることが正攻法。ですが、日本経済はすぐにはこれができない状況です。アベノミクスで雇用が増えたといいますが、非正規雇用が中心で、介護士や保育士にしても低賃金の状況は変わっていません。

 真面目に一生懸命働いていても、「食べるのが精いっぱい」という人が増えており、消費税増税の影響は予想した以上にその人たちに重くのしかかっています。

 一方、コロナ禍で打撃を受けた中小や零細企業では、賃金を上げたら倒れてしまうというところも少なくありません。結局、減税で実質所得を上げることで、ぎりぎりで生活している人たちを支えようというわけです。

 票につながるから減税公約を競うことはまずいと思いますが、総選挙の結果を見ても、消費税減税に一定の支持があったことは確かです。

 ただし、経済成長ができておらず、財政の構造が変わらないままでは、減税分の歳入を国債増発で賄っても、先払いで財政支出をしているだけ。後から増税しなければなりません。結局は一時しのぎで、長い目でみればむしろ状況を悪化させる恐れがあります。

 こうなったのは、成長戦略の失敗と、もう一つは分配の失敗です。

 2000年以降、日本企業の分配の仕方が大きく変わりました。株主主権論が強くなって配当が増えました。また経営者には、バブル崩壊の際に資金繰りに窮した記憶が残っており、内部留保を増やし続けた。結局その分、労働者への分配が削られました。

 消費税減税などが、人々の心に響く状況になっています。