西井泰之
停戦後のウクライナや欧州の安全保障の枠組みはどうあるべきか。鶴岡路人・慶応大学准教授は、ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟はこの3年の経験で不可逆的なものとなったが、欧州にはウクライナを迎え入れる覚悟はまだ固まっていないとみる。

頭越しに進む米国とロシアのウクライナ停戦交渉に欧州諸国の危機感は強い。英仏独の首脳の間ではロシアの再侵攻回避を防ぐため欧州による停戦監視軍の派遣も議論されている。ウクライナのNATO加盟を含め欧州諸国が目指す停戦はどのような枠組みなのか、鶴岡路人慶応大准教授に聞いた。

市場の予想を覆しての日本銀行の追加利上げは円高急伸と日経平均株価の乱高下を生んだ。円安是正に動かないことへの批判の高まりに遅ればせながらの対応だったが、市場の不安定化で金融正常化のシナリオにも暗雲が漂う。

「日銀が大株主」の企業ランキング2024【上位10社】ファストリ株3兆円よりも多く保有する銘柄は?
日本銀行が購入し保有するETF(上場投資信託)の2024年3月末時点の時価が約74兆円、含み益が約37兆円と、日本株の高騰を反映し、いずれも過去最高となった。日銀が株式を10%以上保有するのは72社に及ぶ。日銀が「大株主」の企業ランキングで課題を検証する。

日本銀行が購入し保有するETF(上場投資信託)の2024年3月末時点の時価が約74兆円、含み益が約37兆円と、日本株の高騰を反映し、いずれも過去最高となった。日銀が株式を10%以上保有するのは72社に及ぶが、今後、市場に悪影響を及ぼさずに処理していく道筋は見えないままだ。

日本銀行は3月19日の金融政策決定会合で、マイナス金利やYCCの撤廃など17年ぶりの利上げを決めた。これまで長年続いた大規模金融緩和は日本経済の成長力を強めたとは言えず、財政や金融市場も超低金利への依存を深めた。金融政策や経済の「正常化」は課題山積で長い道のりだ。

小泉悠准教授は、プーチン大統領がウクライナの支配に執着する背景には「ロシアとの一体性からのルーシ民族主義的な感情がある」と分析。核の時代にも古い時代の侵略戦争が起こることを示したのがウクライナ戦争だと言う。

3年目に入るウクライナ戦争は、「反転攻勢に失敗したウクライナが、ロシアの攻勢に再び耐える年になる」と東京大学の小泉悠准教授は語る。プーチン氏の戦争目的を頓挫させるためには、欧米の軍事支援継続が鍵だ。

金利ゼロにもかかわらず日本経済が長期停滞に陥った原因をデービッド・アトキンソン氏は企業経営者が楽な経営環境に安住しイノベーションを怠ったからだと分析。「金利復活は経営者へ『現状維持』を許さないプレッシャーになる」と語る。

自民党派閥の「裏金疑惑」は安倍派の現職国会議員の逮捕にまで進んだ。刑事告発した上脇博之神戸学院大学教授は「摘発は氷山の一角」として、派閥領袖(りょうしゅう)らの関与による組織犯罪の徹底捜査を求めるとともに「政治とカネ」の問題の根本解決には企業献金や政党交付金、小選挙区制の廃止が必要だと語る。

9月から「政治の季節」となる中で、ウクライナ戦争はどう展開するのか。兵頭慎治・防衛研究所研究幹事は、プーチン大統領は「強い指導者」を誇示しようとして戦争に介入する結果、ますます戦況が悪化する「ジレンマ」が強まるとみる。

ロシア・ワグネル反乱で表面化したプーチン体制の亀裂は、ウクライナ戦争にどういう影響を及ぼすのか。兵頭慎治・防衛研究所研究幹事は、威信回復を目指すプーチン大統領には占領地が縮小した状況での停戦はあり得ず、「プーチン戦争の泥沼化」を予想する。

ワグネルの反乱は、ウクライナ戦争のあだ花にすぎないのか。下斗米伸夫神奈川大学特別招聘教授は、プーチン大統領が来年3月の大統領選挙を意識し、「ウクライナの反転攻勢をしのいだ後、停戦に動き出すのではないか」と外交解決の流れが活発化すると見る。

「プーチン体制」で初めて起きた反乱の主は政治家でも軍人でもない民間軍事会社のトップだった。ロシア研究の第一人者、下斗米伸夫氏は、ワグネルの反乱はウクライナ戦争の「真実」を浮き彫りにしたと指摘する。

植田日銀は、過去の緩和策のレビューを新体制の最初の取り組みとして打ち出しました。異次元緩和のもとになった2%物価目標を盛り込んだ政府日銀の共同声明策定を担った門間一夫・元日銀理事は、重要なのはレビューを日本経済の低成長・低インフレの原因や中長期の課題を国民全体で共有する機会にすることだと言います。

「植田日銀」の最重要課題は、異次元緩和策の正常化だ。安倍元首相のブレーン、本田悦朗・元内閣官房参与は、「アベノミクスは消費増税など財政の逆噴射で足を引っ張られ道半ば」と黒田緩和路線継続を求める。

植田日銀新体制は黒田路線の修正を意識した色合いが強く、YCCの柔軟化を皮切りに2024年半ば以降、マイナス金利解除などの正常化に踏み出すと、木内登英・元日銀審議委員は予想する。懸念は欧米金融不安の再燃だ。波及次第では正常化シナリオが大きく後にずれる。

日本銀行の植田和男総裁の新体制での金融政策はどうあるべきか。「異次元緩和という大実験は失敗だった」と指摘してきた早川英男・元日銀理事は、政府との共同声明見直しやYCCなどの政策の検証を夏までに進め、来年以降の金融緩和の本格転換をにらんで準備を進めることだという。

経済学者の植田和男氏の日銀新総裁起用は「本命」が固辞した事情もあるが、植田氏は量的緩和策の可能性とともに弊害も早くから指摘している。政治色のない学者総裁でアベノミクスの主柱、異次元緩和の手じまいを進める思惑がにじむ。

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倒産急増の引き金になりかねないゼロゼロ融資の返済本格化を前に、過剰債務の減免が打ち出された。提案した自民党金融調査会の片山さつき会長は、「事業再生の後押し」に「2兆~3兆円」規模の債務減免が必要だと語る。
