他人と物理的・心理的な距離が広がり、「1億総孤独」といえる現代。他者に依存せず、「個」として自立するには、どうすればいいのでしょうか。寺田倉庫の経営改革などを果たし、「伝説の経営者」と呼ばれる中野善壽氏は、「孤独を生きることで、自分の感性を信じ、磨き抜くことができる」と語ります。本連載では、中野氏の著書『孤独からはじめよう』から抜粋し、「一人で生きる時代の道標」となる考え方を紹介します。
「さみしさ」は常に隣にあった
孤独は僕にとって幼い頃から身近なものでした。
いろいろな人との関わりや転居といった経験によって、精神は鍛えられたと思います。
そうはいっても、「さみしさ」は常に隣にありました。
孤独もなかなかいいじゃない、なんて思えるようになったのは大人になってからのことです。
社会に出るまではずっと心細さがあったし、そもそも孤独をプラスに考えようとする発想さえなかった。
孤独はマイナスのものであり、「死」に向かう意味としてとらえてきました。
その意味がプラスに転じたのは、大学生の頃でした。
僕のことを心から期待してくれる人に初めて出会えたのです。
その人は、僕より十くらい年上で、社会とはなんたるかを教えてくれた人でした。
何者でもなかった僕の可能性を信じてくれて、「あなたならできるよ」と期待をかけてくれた。
僕は「個」として生きていいのだと思えたし、思い切って社会に踏み出すことができた。今思い出しても感謝しています。