「すべきこと」以上に、
「してはいけないこと」が重要
たとえば、ビールや理髪店などリテンション率が高いビジネスを考えてみましょう。ビールというのは一説によると、消費者のこだわりが強いわりには、ブラインドテスト(目隠しをした試飲のテスト)をすると、答えを間違えやすい商品の代表格ともいわれます。アサヒスーパードライはこういう味だ、サントリーモルツはこういう味だ、という明確なイメージが我々消費者に頭の中にしっかり刻み込まれているからなのです。これは、自分の固定観念に自分がだまされているというような説明が可能でしょう。
理髪店も、「行きつけ」の店はめったに変えないものです。それは、美容師さんとの「あ・うん」の呼吸ができているため、「いつもの通りにしてください」とか「短めにしてください」というような、曖昧なコミュニケーションでも、消費者の期待値通りのカットをしてくれるからではないでしょうか。
このように、顧客に継続的に支持される(リテンションする)ものは、顧客から見た「変わらぬ価値」に対する期待がある、という共通点があります。言い換えれば、「あの商品、あのサービスなら間違いないだろう」というイメージです。そして、このイメージが顧客の頭の中にクッキリとした輪郭を持つことができれば、商品やサービスがブランド化されるのです。それは、中身のないものを厚化粧し、派手な宣伝を行い続けることではなく、商品やサービスが持つ(顧客にとっての)本当の価値を持続し続けることなのです。
顧客にとっての価値を持続し続けるためには、商品・サービスの提供者側は「すべきこと」以上に、「してはいけないこと」に気を配らなければなりません。たとえば、フランスの高級バッグのルイ・ヴィトンは、絶対に値下げをしません。ファッションビル、マルイの大ヒット商品である「らくちんパンプス」は、あれだけの大ヒットにもかかわらずアジアの安価な工場で生産できないのです。それは、お客様に「履き心地」という固い約束を守り続けるためのブランド戦略なのです。