EVで後塵を拝す状況が続けば
自動車産業の国際競争力は低下

 いすゞのEVトラック生産は、わが国経済にとって重要だ。産業構造面から見た場合、わが国の経済は「自動車一本足打法」とやゆされるほど自動車に依存している。

 1990年代初頭の資産バブル崩壊後、わが国経済は長期停滞に陥った。その中で経済を下支えしたのが自動車産業だった。特に、ハイブリッド自動車(HV)のイノベーションはわが国自動車産業を世界トップの地位に押し上げる原動力だった。

 しかし、HVに続く新しい商品が創出できなかった。自動車産業への経済的依存度は高まった。2021年7~9月期、米国とユーロ圏の実質GDP成長率がプラスだったのに対して、わが国の成長率は前期比年率で3.0%のマイナスだった。国内の感染再拡大に加え、東南アジアでの感染再拡大が自動車部品の供給を制約し、自動車生産と販売が減少した影響は大きい。

 また、わが国自動車産業のEVシフトへの対応は遅れている。企業が本拠地を置く国ごとにEV販売シェアを見ると、ドイツが28%、中国が27%、米国が20%程度であるのに対して、わが国は約5%にとどまる。企業別に見ると、EV販売トップはテスラであり、わが国の自動車メーカーはトップ10にランクインしていない。本邦自動車メーカーのHV重視姿勢は強い。

 中長期で考えると、EVで後塵を拝す状況が続けば自動車産業の国際競争力は低下し、経済にも打撃だ。わが国自動車メーカーが高いシェアを維持してきたインドネシアなどの東南アジア新興国地域では、脱炭素と経済成長の加速のために国策としてEV生産の強化が重視され、韓国、台湾、中国、ドイツなどの企業が直接投資を増やしている。東南アジアの自動車市場で日系自動車メーカーのシェアが低下する可能性は軽視できない。

 わが国では自動車に続く移動手段として、国を挙げて取り組んだ旅客航空機の開発も凍結された。米国などでは航空機技術と自動車技術を結合して新しいモビリティーの創造を目指している。いすゞのEVトラック技術は、わが国経済の成長力強化に欠かせない。