8月下旬に終了した日本製鉄とトヨタ自動車の鋼材価格の値決め交渉は、大幅値上げで決着した。脱炭素という潮流が世界的に高まったことで、鉄鋼各社にとって投資資金の確保は待ったなしとなっている。そのために日本製鉄は値決め主導権の奪還など、営業面を強化して収益向上を急ぐが、それでも鉄鋼業界で「鉄鋼3社統合説」がささやかれるのはなぜか。特集『脱炭素地獄』(全19回)の#5では、統合説が急浮上する鉄鋼業界の試練について探る。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)
8月下旬のチャンピオン交渉は
過去10年で「最大の値上げ幅」の決着
「トヨタ自動車は日本製鉄の値上げ要請に“満額回答”で応じたようだ」
あるトヨタ関係者は、8月下旬に終了した日本製鉄とトヨタの鋼材価格の値決め交渉についてそう明かす。この「チャンピオン交渉」と呼ばれる鉄鋼と自動車のトップメーカー同士の交渉は年に2回行われるが、今回は大幅値上げで決着した。値上げ幅は、少なくともこの10年で最大になったとみられている。
数年来、「再生産可能な適正価格、マージンの実現」を顧客に訴えてきた日本製鉄にとっては快挙だ。だが日本製鉄OBは、値上げよりもむしろ、日本製鉄が特定顧客向けのひも付き価格の値決め方式にメスを入れたことに驚愕する。「極端に言えば、日本製鉄は37年ぶりに値決め方式の変更に踏み込んだということだ」――。
日本製鉄が狙っているのは、自動車メーカーからの「値決め主導権」の奪還だ。
主原料価格が高騰したこともあって、この数年はただでさえ、製鉄事業を展開する単独ベースの実質営業損益(在庫評価差を除いた営業損益)の赤字が続いた。そこに世界的な「脱炭素シフト」の潮流が強まり、もはや収益改善による投資資金の確保は待ったなしとなった。
だからこそ日本製鉄は値決め方式を含めた抜本改革に着手しているわけだ。だがそれだけではない。鉄鋼業界では、まことしやかに「鉄鋼3社統合説」までささやかれるようになっている。
日本製鉄は脱炭素という試練にどう立ち向かおうとしているのか。そしてなぜ今、鉄鋼3社の統合説が急浮上しているのか。