一冊の「お金」の本が世界的に注目を集めている。『The Psychology of Money(サイコロジー・オブ・マネー)』だ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙のコラムニストも務めた金融のプロが、資産形成、経済的自立のために知っておくべきお金の教訓を「人間心理」の側面から教える、これまでにない一冊である。昨年秋の刊行以降、世界43か国で刊行され、世界的ベストセラーとなった本書には、「ここ数年で最高かつ、もっとも独創的なお金の本」と高評価が集まり、Amazon.comでもすでに10000件以上のレビューが集まっている。本書の邦訳版『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』が、12月8日に発売となる。その刊行を記念して、本書の一部を特別に公開する。
投資の代償とは?
車を手に入れたくなったとする。新車の価格は3万ドルとする。選択肢は次の3つだ。
①3万ドルを払って新車を購入する
②もっと安い中古車を探す
③盗む
99%の人は、3番目の選択肢を避けるだろう。なぜなら、失敗したときの不利益が、成功したときの利益よりも大きいからだ。
では、今後30年間、11%の利回りで資産を運用し、安心して老後生活を送るための資産を築きたいという場合はどうだろうか。このリターンは、無料で得られるものだろうか?
もちろん、そうではない。世の中はそんなに甘くはない。当然、支払わなければならない代償がある。この場合の代償とは、絶えず市場に翻弄されることだ。市場は大きなリターンを与えてくれるが、同時にあなたの資産を簡単に吸い取ってしまう。
これが市場リターンを得るために支払わなければならない代償だ。これは代償であり、入場料でもある。そして、痛みを伴う。
投資の神様は、代償を払わずにリターンを得ようとする者を嫌う
さて、ここからが大事なところだ。先ほどの車の例と同じように、投資の場合も3つの選択肢がある。
①代償を支払い、ボラティリティや混乱を受け入れる
②中古車を買うように、利回りは少ないが安定した投資資産を探す
③車を盗むように、リターンは得てもそれに伴うボラティリティは避けようとする
投資をする人の多くは、3番目の選択肢を選ぶ。悪いことをしようという意識はなく、法律を破るわけでもないが、結果的に車泥棒のように、代償を払わずにリターンを得ようとするのだ。
そのため、値下がりする前に売り、値上がりする前に買おうとするテクニックや戦略を採用しようとする。しかし少しでも投資をかじれば、ボラティリティが現実であり、よくあることだと気づく。そして多くの人は、ボラティリティを回避しようとする。
だが、お金の神様は代償を払わずに報酬を求める人を好まない。車を盗んで逃げのびる者もいるだろう。だがほとんどの場合は、捕まって罰を受けることになる。投資も同じなのだ。
(本原稿は、モーガン・ハウセル著、児島修訳『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』からの抜粋です)
ベンチャーキャピタル「コラボレーティブ・ファンド社」のパートナー。
投資アドバイスメディア「モトリーフル」、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の元コラムニスト。米国ビジネス編集者・ライター協会Best in Business賞を2度受賞、ニューヨーク・タイムズ紙Sidney賞受賞。妻、2人の子どもとシアトルに在住。