一冊の「お金」の本が世界的に注目を集めている。『The Psychology of Money(サイコロジー・オブ・マネー)』だ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙のコラムニストも務めた金融のプロが、資産形成、経済的自立のために知っておくべきお金の教訓を「人間心理」の側面から教える、これまでにない一冊である。昨年秋の刊行以降、世界43ヵ国で刊行され、世界的ベストセラーとなった本書には、「ここ数年で最高かつ、もっとも独創的なお金の本」と高評価が集まり、Amazon.comでもすでに10000件以上のレビューが集まっている。本書の邦訳版『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』が、12月8日に発売となる。その刊行を記念して、本書の一部を特別に公開する。

毎月1ドルずつ、異なる方法で投資した3人。いちばん儲けたのは誰?Photo: Adobe Stock

下げ相場でどう行動する人が、いちばん儲けられるか?

 1900年から2019年まで、毎月1ドルずつ貯金したとする。そのお金は、どのように投資するのが有効だろうか。

 この1ドルを、上げ相場だろうが下げ相場だろうが、とにかく毎月、米国の株式市場に投資するとしよう。経済学者が、迫り来る不況や新たな下げ相場について声高に警告していても関係ない。ただ投資を続ける。この方法で投資する人を「スー」と呼ぶ。

 しかし、景気後退時に投資するのは怖いと考える人もいるだろう。その場合、毎月1ドルを株式市場に投資し、景気が後退したら株式を売却して毎月1ドルを現金で貯金する。そして景気後退が終わったらその貯金をすべて株式市場に投資する。この投資家を「ジム」と呼ぼう。

 または、景気後退に怖気づき、市場に復帰するまでに数ヵ月かかる人もいるかもしれない。この場合、基本的に毎月1ドルを株式に投資するが、景気後退になったら6ヵ月後に株式を売却し、景気後退が終わって6ヵ月したら投資を再開する。この投資家は「トム」と呼ぶ。

 この3人の投資家は、1900年から2019年までのあいだに、どれくらいの資産を築けるだろうか? 答えは以下の通りだ。

・スーは43万5551ドル
・ジムは25万7386ドル
・トムは23万4476ドル

 圧倒的にスーの勝ちだ。1900年から2019年のあいだには1428ヵ月間がある。そのうち300ヵ月が景気後退の期間だった。

 つまり、スーは景気が後退していた、あるいは後退しかけていた全体の21%のあいだに冷静さを保って投資を続けたことで、ジムやトムよりも4分の3近く多くの資産を築くことができたのだ。

投資のコツは、恐ろしい瞬間をいかに平然と乗り切るか

 さらに言えば、ある投資家が2008年後半から2009年前半の数ヵ月間(株価が暴落したタイミング)にどのような投資をしたかは、2000年から2008年前半までに行ったすべての投資よりも生涯リターンに大きな影響を与える可能性がある。

 パイロットの世界には、「この仕事は、膨大な退屈な時間のなかで、ごくまれに訪れる恐ろしい瞬間に対処すること」だという冗談がある。これは投資においても同じだ。投資家として成功するかどうかは、クルーズコントロール状態で悠々と過ごす時間ではなく、恐怖の瞬間にどう対応するかで決まるのだ。

 天才的な投資家の定義。それは「周りの人たちが我を忘れているときに、当たり前の行動をとれる人」なのである。

(本原稿は、モーガン・ハウセル著、児島修訳『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』からの抜粋です)

モーガン・ハウセル

ベンチャーキャピタル「コラボレーティブ・ファンド社」のパートナー。投資アドバイスメディア「モトリーフル」、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の元コラムニスト。
米国ビジネス編集者・ライター協会Best in Business賞を2度受賞、ニューヨーク・タイムズ紙Sidney賞受賞。妻、2人の子どもとシアトルに在住。