ジェフ・ベゾス自身の言葉による初めての本『Invent & Wander』が刊行された。100万部ベストセラー『スティーブ・ジョブズ』などで知られるウォルター・アイザックソンが序文を書き、翻訳も100万部超『FACTFULNESS』などの関美和氏が務める大型話題作だ。
その内容は、PART1が、ベゾスが1997年以来、毎年株主に綴ってきた手紙で、PART2が、「人生と仕事」について語ったものである。GAFAのトップが、自身の経営についてここまで言葉を尽くして語ったものは二度と出てこないのではないか。
サイトとしてだけでなく、キンドル、プライム・ビデオ、AWSなど、多くの人が「アマゾンのない生活など考えられない」というほどのヒットサービスを次々と生み出し、わずか20年少しで世界のあり方を大きく変えたベゾスの考え方、行動原則とは? 話題の『Invent & Wander』から、一部を特別公開する。

ジェフ・ベゾスが明かす「人生で大勝ちできる」1つの条件Photo: Adobe Stock

企業文化は強みにも弱みにもなる

 よくも悪くも、企業文化というものは、組織に染み付いていて、変えることは難しいものです。それは、強みにも弱みにもなり得ます。

 企業文化を書き記すことはできますが、それは企業文化を発見し、表に出すだけのことであり、つくりだすことにはなりません。企業文化は長い時間をかけてゆっくりと、人や出来事によってつくられるもので、過去の失敗と成功の物語が、企業の歴史に深く刻み込まれていく過程でかたちになっていくものです。

 独特で際立った文化に、ピッタリと合う人も中にはいます。企業文化が時を経ても変わりにくいのは、その文化に合う人が自然と集まるからです。

 熾烈な競争に燃えるタイプの人はそういう文化の会社を選ぶでしょうし、その環境にいて嬉しいかもしれませんが、発明したり道を切り開いたりしたい人なら違う文化を選ぶでしょう。

 幸いなことに、業績がよく、文化が独特な企業は世の中にたくさんあります。アマゾンのやり方が唯一の正しいやり方だとは決して言いません。ただ私たちには私たちのやり方があるというだけであり、この20年間同じような志を持った人を多く集めてきました。アマゾンのやり方に意義を見出し、心を燃やしてくれる人たちです。

ひとつの大勝ちが多くの実験をまかなう

 私たちがとりわけ独特だと思っていることは、「失敗」をどう捉えるかという点です。

 アマゾンは失敗するには最高の会社で(たくさん練習できます!)、失敗と発明は切っても切り離せないものだと考えています。何か新しいものを生み出すには失敗が欠かせませんし、前もってうまくいくとわかっていたら、それは実験ではありません。

 たいていの企業はイノベーションを奨励すると口では言っても、そこに至るために繰り返し実験に失敗する覚悟はありません。

 世の中の常識に外れたものに賭けてこそ、思いも寄らないような莫大なリターンが生み出されるわけですが、たいていの場合、世の中の常識のほうが正しいものです。

 しかし、投資に対して100倍のリターンが得られる確率が10パーセントあるとしたら、かならずその賭けに乗るべきです。それでも、10回挑戦して、9回は失敗することになります。いつもフェンス超えを狙っていれば、三振も増えますが、ホームランも何本かは打てるわけです。ただし、ビジネスと野球は違い、野球の場合は結果が切断分布になります。バットを振ったとき、どれほど遠くに飛ばしても得点できるのは4点までです。ビジネスであれば、打席に立つことで、ほんのたまにではありますが1000点挙げることも可能です。

 このように、ビジネスではリターンの分布がロングテールであるからこそ、大胆な賭けが大切になるのです。大勝ちすれば、たくさんの実験のもとが取れるというわけです。

 プライム、マーケットプレイス、AWSの3つはいずれも大きな賭けがうまくいった例で、アマゾンは幸運にもこの三本柱を持つことができています。

 この三本柱のおかげでアマゾンは大企業に成長できました。そして世の中には大企業にしかできないことがあります。シアトルにスタートアップは数多くありますが、どんなに優秀な起業家でも、小さなガレージ企業で全複合素材の787型機を製造することは不可能です。少なくとも、自分が乗って安全というレベルの航空機をガレージでつくることはできません。

 アマゾンはこれだけの規模だからこそ、その規模を上手に使えば、小さな企業には考えられないようなサービスをお客様に提供することが可能になるのです。ですが同時に、私たちが気を緩めたり思慮を欠いたりすれば、規模の大きさゆえに進歩が遅れ、斬新さを失いかねません。

 アマゾンのチームメンバーと顔を合わせるたびに、いつも彼らの情熱と知性と創造性に驚かされます。
(本原稿は、ジェフ・ベゾス『Invent & Wander』からの抜粋です)

ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)
アマゾン創業者、元CEO。宇宙飛行のコスト削減と安全性向上に取り組む宇宙開発企業、ブルーオリジン創業者。ワシントン・ポスト社オーナー。2018年、ホームレスの家族を支援する非営利団体の支援や、低所得地域の優良な幼稚園のネットワーク構築に注力するベゾス・デイワン基金を設立。1986年、プリンストン大学を電気工学とコンピューターサイエンスでサマ・カム・ラウディ(最優秀)、ファイ・ベータ・カッパ(全米優等学生友愛会)メンバーとして卒業、1999年、タイム誌「パーソン・オブ・ザ・イヤー」選出。『Invent & Wander──ジェフ・ベゾス Collected Writings』を刊行。