ジェフ・ベゾス自身の言葉による初めての本『Invent & Wander』が刊行された。100万部ベストセラー『スティーブ・ジョブズ』などで知られるウォルター・アイザックソンが序文を書き、翻訳も100万部超『FACTFULNESS』などの関美和氏が務める大型話題作だ。
その内容は、PART1が、ベゾスが1997年以来、毎年株主に綴ってきた手紙で、PART2が、「人生と仕事」について語ったものである。GAFAのトップが、自身の経営についてここまで言葉を尽くして語ったものは二度と出てこないのではないか。
サイトとしてだけでなく、キンドル、プライム・ビデオ、AWSなど、多くの人が「アマゾンのない生活など考えられない」というほどのヒットサービスを次々と生み出し、わずか20年少しで世界のあり方を大きく変えたベゾスの考え方、行動原則とは? 関美和氏による『Invent & Wander』の訳者あとがきを特別公開する。
史上初、ベゾスの生の言葉で書かれた本
まず質問させてほしい。
1. アマゾンは1997年にNASDAQに上場した。では、上場前年である1996年の売上高はどのくらいだっただろう?
2. アマゾン株の新規公開価格は18ドル。インターネットバブルが頂点に達した1999年のアマゾン株の最高値は113ドル。では、ネットバブル崩壊後の最安値は?
アマゾンの1996年の売上高は1575万ドル。日本円に換算すると約17億円である。創業2年目で17億円の売上高はたしかに大きな数字ではあるが、1997年にはこれが1億4788万ドル(約161億円)に爆増する。それでも現在の40兆円を超える売上高に比べると微々たる金額だ。
しかしネットバブルの崩壊後、2000年の株主への手紙の冒頭は、「いたた」という言葉ではじまる。1999年12月に106ドルをつけたアマゾンの株価は、2年もしないうちに6ドルまで下がったのだ。
現在のアマゾンの姿を知るみなさんにとっては、いずれも意外な事実かもしれない。
私自身は1993年にアメリカの大学院を卒業し、アマゾンの成長の軌跡と自分自身のキャリアがちょうど重なっているので、アマゾンについてはそれなりに知っているつもりになっていたが、本書を読んでハッとすることが多かった。そのひとつが、上に紹介した数字である。
現在、時価総額が日本円で160兆円を超え、売上が40兆円を超える企業にも、当たり前だが売上が10億そこそこの時代がそう遠くない昔にあったということに(そして当時のアナリストはおそらく株価が高すぎると思っていただろうことに)、改めて気づいたのだ。
そしてファンダメンタルが絶好調でも、バブル崩壊後には株価が20分の1近くに下がっていたことに(その下落の激しさに)驚くと共に、それでも一貫してブレない経営を続けてきたベゾスという経営者の肝の据わり方というか、原則への固執力に驚嘆した。
これまでにアマゾンの創業者、ジェフ・ベゾスを描いた本は数多く出版されてきたが、本書は史上初めて、生のジェフ・ベゾスの言葉で書かれた本だ。
内容は二部構成で、PART1では1997年から2019年まで、上場以来、毎年ベゾスが株主に向けて書いてきた手紙を時系列に沿って掲載している。PART2は、インタビュー、講演、公聴会での証言などをテーマ別に並べたものだ。
ここから見えてくるベゾスの「原則」とは何だろう?
その1:「変わらないもの」に目を向けること
ひとつには、「変わっていくもの」ではなく「変わらないもの」に目を向けることだ。
変わらないものとは、顧客は「より安く、より早く、より品揃えの多いサービスを求める」といったことだ。だからアマゾンはその求めに応じることに集中する。
その2:「長期」を見ること
また、「長期を見ること」も最重要の哲学のひとつだ。