「ツタヤがピザハットの買収を計画しているとする。はたして、これはよいアイデアだろうか?」――なんの前ぶれもなく面接官から、このような質問を投げかけられるのが、戦略コンサルティング会社の面接なのだという。こうした事前の準備なしには対応不可能と思われるニッチな分野で、10年以上にわたって世界トップの位置を占め続けているベストセラーの最新版、それが『戦略コンサルティング・ファームの面接試験 新版』である。著者はハーバード大学就職課を皮切りに世界中で10万人以上の戦略コンサルタント志望者の面接を指導してきた人物。面接試験対策だけでなく、コンサルタントのような戦略思考が身に着けられると評判の本書から、ポイントを紹介していく。(訳:辻谷一美)
戦略コンサルタントは、自らの頭脳を売る仕事だから...
クライアントのネットフリックス(Netflix)が、会員向けのDVD宅配レンタルサービスをいつ、どのような方法で終了すべきかについて、アドバイスを求めている。どこから手をつければよいだろうか?
戦略コンサルタントは、自らの頭脳を売る仕事である。彼らは、今まで扱ったこともないような膨大なデータを片っ端から収集し、その中から有益と思われる情報のみを選別して、クライアント(顧客)から与えられた課題に取り組むためのアプローチを構築する。そして、論理的かつ創造的な仮説を立て、企業内で大きな権限を持つ人々(たとえば、上のケースにおけるネットフリックスの重役など)に対してアドバイスを与えることで収入を得ている。
このような職業柄、戦略コンサルティング・ファームは採用にあたって、ケース・インタビューの評価を非常に重要視する。ケース・インタビューを行うことによって、相手が論理的かつ説得力のある結論を導くことができる人物かどうかを判断できるからである。一言で言えば、ケース・インタビューは、戦略コンサルティング業務のロール・プレイなのである。ほとんどのケース・インタビューにおいて、唯一の正解はないということは覚えておくべきだ。ケース・インタビューでは、結論そのものよりも、そこに至るまでの相手との対話のほうがより重要である。また、クライアントの身になって、良い結果を生み出す提案を示すことが求められる。
ケース・インタビューを克服するためには、出題される問題に対してどのように答えるべきかを知っておく必要がある。本書は、その方法を読者のみなさんに伝授するものだ。まずは、戦略コンサルティング・ファームの採用面接がどのように進むのか、どのような情報を事前に調べておく必要があるのか、どのような資質が求められているのかを解説する。そして、出題されるビジネス・ケースのさまざまな種類と、それらに取り組むための武器となる「アイビー・ケース・システム」を紹介する。
私はハーバード大学の就職指導課に18年以上勤務し、米国トップレベルの学生たちが戦略コンサルティング・ファームの面接を受けるための手助けをしてきた。指導した学生の数は延べ1万人以上にのぼるが、この間、私がよく目にしたのは、彼らがいくつものフレームワークをやみくもに記憶した挙げ句、いざビジネス・ケースに取り組む段になって、どのフレームワークを使えばよいのかがわからず四苦八苦している姿である。
一方で、戦略コンサルティング・ファームが出題するビジネス・ケースは、年々複雑なものになっている。また、近年は、戦略コンサルティング・ファームのみならず、成長著しい世界的企業がビジネス・ケースを面接に取り入れる例も増えている。過去の代表的なフレームワークは依然として有益ではあるものの、近年の洗練されたケースをこなすには、十分なツールではなくなってしまっているのだ。
私は、複雑なビジネス・ケースをできる限り単純化して取り組むための方法として、「アイビー・ケース・システム」を考案した。「アイビー・ケース・システム」を用いれば、ケース・インタビューの出だしから気まずい沈黙が流れることもなくなり、幸先よく議論をスタートし、論理的ですっきりとまとまった回答ができるようになるだろう。
「フレームワーク」と「システム」は、似て非なるものである。フレームワークが単なる1つのツールにすぎないのに対して、システムは複数のステップから構成される一連のプロセスであり、そのプロセスの中には関連する複数のツールがすべて組み込まれている。「アイビー・ケース・システム」は、ケース・インタビューを克服するための方法として、最も実用的で応用が利くものなのである。
ここで、読者のみなさんに1つ覚えておいてほしいことがある。それは、ケース・インタビューの練習を積む過程において、戦略コンサルタントが本当に自分に合った職業なのかどうかが、自然とわかってくるということだ。これが本当に自分のやりたい仕事なのか、自分を成長させていくことができる最適な職業は戦略コンサルタントなのかを、自分自身に問い掛けなければならない。
「自分は問題解決を楽しんでいるだろうか? クライアントの課題に取り組むことを楽しんでいるだろうか?」戦略コンサルタントを志す人にとっては、ケース・インタビューは楽しいものとなりうるし、また、本来そうでなければならないのである。