“性暴力”映画監督の追悼上映が中止、「作品に罪はない」論争に新たな視点故・キム・ギドク監督 Photo:Pascal Le Segretain/gettyimages

東京・有楽町の映画館で予定されていた、特別上映「キム・ギドクとは何者だったのか」の中止が発表された。キム・ギドク監督は昨年、新型コロナウイルス感染症で死去。その死は一部のファンに衝撃を与えたが、一方で性暴力の告発を受け、韓国映画界から「追放」された人物でもある。そのため、日本での特別上映について、ツイッター上で強い批判の声が上がっていた。今「作品に罪はない」といった理屈に、新たな角度からの検討が加え始められている。(フリーライター 小川たまか)

「鬼才」の追悼上映は必要だったのか

 外国映画の配給などを行うクレストインターナショナルの公式サイトで「キム・ギドク特別上映中止のお知らせ」が発表されたのは、12月7日。

 キム・ギドク監督はベネチア国際映画祭で2回監督賞を受賞するなど国際的評価が高く、その作風から「鬼才」と評されていた。しかし2017年、女優がキム監督からの性暴力被害を告発したことをきっかけに、女優や撮影スタッフなど複数の女性が、作品の撮影中などに度重なる暴力、性暴力が行われたと証言した。キム監督は性暴力について否認。女優らを逆に名誉毀損で訴えたが、昨年敗訴した。

 韓国国内の批判は強く、韓国映画界から「追放」状態だったため、国外での活動を続けていたと報じられている。しかし、2020年12月に滞在中のラトビアで、新型コロナウイルス感染症で死去した。

 没後1年に合わせて東京・有楽町の映画館で予定されていた特別上映は、告知開始直後からネット上で批判の声が上がった。告知文にあった「訴訟を起こされスキャンダルにまみれていた」「世界三大映画祭を制した映画監督として認められた人物でありながら、その死を悼むことすら許されない空気が流れた」といった文章が、被害者たちが語った深刻な性暴力被害を単なる「スキャンダル」かのように矮小化するものだと批判されていた。

 さらに火に油を注いだのが、12月5日公開されたクレストインターナショナル代表による見解だった。

「大変遺憾なことだと認識していますが、犯罪者が作った映画を見るべきではないとは考えていません」「なぜ上映するのか、なぜダメなのかという問いを続け、『キム・ギドクとはいったい何者だったのか』を考える機会をつくりたいと思ってきました」などの文章は、これまでこういった問題が議論される際にもっともらしく使われてきた「作品と人格は別」をなぞったものでしかなく、批判や疑問の声に応える説明にはなっていなかった。

 中止の理由は明確にされていないが、タイミング的に見て、見解の発表でも賛同を集められなかったことが理由だろう。