大島優子と篠田麻里子の所属事務所が
違うワケは「固定費」にある?
この劇場建設にともなう固定費増への対応策のキーワードが「分業」です。ご存知の方も多いと思いますが、AKB48をはじめ、姉妹アイドルSKE48、NMB48など、すべて「AKS」という運営管理会社を通じて束ねられています。
この会社は、稀代のプロデューサー「A」秋元康氏、資本家の御曹司「K」窪田康志氏、office48(当初、メンバー全員が所属。現在、AKB48の一部メンバーが所属)の社長「S」芝幸太郎氏、という3人が創設した核となる管理会社です。
そして、このAKSという会社の使い方が、実に卓越しています。AKSに所属するメンバーは、ほとんど研究生です。そして皆さんご存知の大島優子さんをはじめとするメジャーデビュー組のメンバー所属事務所は、実はこのAKSの所属ではないのです。
大島優子さんは太田プロ、篠田麻里子さんはサムデイ、板野友美さんはホリプロ、というように多様な事務所に所属しているのです。
一方、AKB48と対比されることの多いモーニング娘。の場合は、アップフロントグループという一社独占体制で、彼女たちのマネジメントから楽曲提供まで、基本的にすべてをまかなえる状況です。この点は、両者の経営姿勢の大きな違いです。
つまり秋元氏側は、得られる儲けを独り占めしない代わりに、これらの経費を自分たちだけで負担することはやめにしようと気づき、つんく♂氏側はそのことに気づかなかったのではないか、ということです。
こうした姿勢の違いが、現在の両者の巧拙(こうせつ)を決めているのではないでしょうか。
かつて、経済学の父、アダム・スミスは『国富論』の中で、分業こそが生産量を高め富の増加に繋がると論じました。この考えを現代に活かしたのがAKB48で、エンタメ連合による分業体制として活かされているのです。
ではここで、会計的に見て、なぜAKB48のアイドルたちは多様な事務所に所属しているのか、具体例にあてはめ紐解いてみましょう。
高い「人件費」を自分たちで持たない!
ポイントは3つありますがここでは2つをご紹介します。(最後の1つを知りたい方はぜひ詳細は拙著を読んでみてください。)
ではまず1番目のポイント「(1)固定費の削減」についてです。そもそもAKB48には、彼女たちに対する人件費のようなAKB48自体にかかる固定費と、成功要因のひとつとされる劇場の維持・運営にかかる多額の固定費と、いう、2つの固定費があります。
「劇場は成功に必須だし……。そうだ!彼女たちの人件費(固定費)を削減しよう!」と考えたとしたらどうでしょう。
会計上、売上高に占める人件費の割合を、人件費率(=人件費÷売上高)と呼びます。一般的に人件費率は4割前後です。ただ、キャバクラなんかもそうですが、サービス業の人件費率は7割程度にまで膨れ上がります。
AKB48のメンバーもビジネスの視点で見てみれば、人件費の塊であることに違いないわけです。だから、全メンバーの所属事務所を「AKS」1つに集中させていないと考えられるのです。
そもそも芸能界は、非常に浮き沈みの大きい業界のひとつです。人気があるうちはキャッシュもバンバン入ってきて、羽振りもいいでしょうが、一旦落ち目になれば、人件費だけで押しつぶされる可能性だってあるのです。アイドルグループを抱える、芸能事務所のキャッシュ・フロー経営は、彼女たちの人気と一心同体、リスクをともなう本当に難しいビジネスです。
そこで、当初全員が所属していた体制を、大所帯となったこともありブレイクとともに改めたのでしょう。AKB48メンバーの放出は、人件費という固定費削減に大きく貢献することになります。さらに、彼女たちの人気と裏腹の関係にあるビジネスリスクを各プロダクションに分散することもできます。つまり、コスト分散とリスク分散の両立が、AKSからのメンバー放出の真意のひとつだったのでは、といえるわけです。