いまや10億人以上がソーシャル・プラットフォームを利用している。その魅力は何だろう。これらは、人間の2つの基本的欲求を満たしている。つまり、見知らぬ人と出会うことであり、現在の人間関係を深めることである。
筆者がソーシャル・プラットフォームに参入している企業60社超について調査したところ、うまくいっていない企業に共通していたのは、「デジタル戦略」を導入し、売らんがためのメッセージを発信し、顧客の反応を求めるというやり方であった。
一方、成功を収めている企業は、新たな出会いを生み出し、人間関係をより良好なものにする「ソーシャル・ネットワーキング・システム(SNS)戦略」を打ち出していた。つまり、利益や経済性よりも、先の基本的欲求を優先していたのである。フェイスブック、ジンガ、イェルプ、アメックスなど、SNS戦略を実践している企業を紹介しながら、その成功条件となる3つの原則と4つの戦略パターンについて解説する。
ソーシャル・メディア戦略の成否の理由
10億人以上の人たちが、〈フェイスブック〉や〈イーハーモニー〉〈レンレン〉〈リンクトイン〉などのソーシャル・プラットフォームを利用している。その魅力は何だろう。これらは、人間の2つの基本的欲求を満たしている。つまり、見知らぬ人と出会うことであり、現在の人間関係を深めることである。
Mikolaj Jan Piskorski
ハーバード・ビジネス・スクールの准教授。企業戦略を担当。ケンブリッジ大学でB.A.、M.A.を取得後、ハーバード大学において社会学でA.M.、組織行動学でPh.D.を取得。主な著書にConnect: Why Social Platforms Work and How to Leverage Them for Success, Princeton University Press, 2012.がある。
2010年、有料の出会い系サイト全体が見知らぬ人同士を仲介して稼ぎ出した金額は10億ドルに上り、いまや、結婚した人の約6人に1人がそれらのサイトのお世話になっている。また〈フェイスブック〉は、交友を広げる場として、7億5000万という驚くべきユーザー数と1000億ドル以上の資産価値を誇っている。
このような経済効果に引かれて、昔ながらの企業も、新規顧客の発見や既存顧客との関係強化を目的として、〈フェイスブック〉の「ファン・ページ」を立ち上げたり、〈ツイッター〉にアカウントを開いたりしている。ところが、たくさんの「友だち」や「フォロワー」を獲得したにもかかわらず、ソーシャル・プラットフォームから利益を生み出している企業は少ない。
ソーシャル・プラットフォームにおける成功と失敗の原因を探るために、私は、製造業から消費財や金融サービス業まで、このネット上の社交場に参入した企業60社超について調査した。
うまくいっていない企業に共通していたのは、ソーシャル・プラットフォームに「デジタル戦略」を導入し、売らんがためのメッセージを発信し、顧客の反応を求めるというやり方であった。顧客はこのような提案は拒絶する。なぜなら、ソーシャル・プラットフォームを利用する主たる目的は、だれか──それは企業ではない──とつながることだからである。
このような行動を理解するのは難しいことではない。たとえば、友人と夕食のテーブルを囲んでいる時、見知らぬ人が同席してきて「この製品はいかがですか」と切り出してきたとしよう。だれもが「けっこうです」と言って、企業からの売り込みより、友人との会話を優先することだろう。しかし、こういうことをなかなか学習できない企業がまことに多い。
それに引き替え、大きな利益を得ている企業は、新たな出会いを生み出し、人間関係をより良好なものにする「ソーシャル・ネットワーキング・システム(SNS)戦略」を考え出している。この戦略は、ソーシャル・プラットフォームの利用者の期待や反応に忠実だからこそ成功する。
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夕食の例えで言えば、SNS戦略を採用している企業は、席に着くと、こう言ってくる。「どなたかご紹介いたしましょうか、それとも、いまのお友だちとの仲が深まるようなお手伝いをいたしましょうか」(図表1「デジタル戦略vs.SNS戦略」を参照)。