一瞬のすれ違いの会話こそ、人生の喜び

おそらく二度と会わないかもしれない人との、一瞬のすれ違いに生まれる会話を、僕は尊いと思う。

それに何の意味があるのかと、損得勘定で考える人もいるかもしれませんが、これこそ人生の彩りではないですか。

まったく異なる人生を歩んできた「個」と「個」が、たまたま交わる一点で出会い、いくつかの言葉を交わし、笑い合う。

もちろん、すべての出会いが響き合うわけではないけれど、ささやかな交流の中で「ああ、楽しいな」と思える時間をつくれるのは、生きてこその喜びです。

どうやったら自然に話しかけられるのかって?

特別な話術なんて必要ありません。

「最近、売り上げはどう?」くらいの普通の問いかけから、会話は始まるんです。

人は案外、たわいもないおしゃべりができる他人を求めているもの。

目的地に着くまでの限りのある関係が、べったりとした付き合いを好まない僕には、かえって心地いいのかもしれません。

(本原稿は、中野善壽著 『孤独からはじめよう』から一部抜粋・改変したものです)