「本人の了解を取らずに突然連行していく時点で、北朝鮮の拉致被害のような重大な人権侵害。しかも、業者は金目当てで実行している。メディアが『施設』と書いていたが、あれは福祉施設ではない。なぜ、このような行為が社会的に容認されてきたのか?」

「人は、誰にも頼らないで生きていくことはできない。その当たり前の権利が無視され、日本では『ひきこもりは悪』だと、メディアも社会も洗脳している。この問題に限らず、日本の人権は置き去りにされているのではないか?」

ひきこもり人権宣言が
「ひきこもり支援」の羅針盤に

 暴力的「ひきこもり支援」施設問題を考える会共同代表の上田マコトさんは、ヒアリングを進めるうちに「とんでもないことが起きている」と、あらためて感じたという。

「業者に連れていかれて亡くなった方もいる。社会の偏見が強いために、家族がひきこもっていることを誰にも言えず、8050問題(80代〈高齢〉の親が50代〈中高年〉の引きこもる子の面倒を見る状況を指した言葉)の要因にもなるなど、見えにくい問題だけに深刻だといえます。この現状を変えるには、まだまだ声を上げる人が少ない。人権宣言をきっかけに、相談できずにいた人や支援被害者に声を上げてもらいたいと思っています」(上田さん)

 不登校・ひきこもり相談室「ヒューマン・スタジオ」で本人や家族の相談にのっている丸山康彦さんも、ひきこもり経験者として、宣言の条文づくりに関わった。その理由について、丸山さんはこう話す。

「ひきこもりの権利というと、世間的には突拍子もないという受け止めが多いと思います。家族が引き出し屋のような悪質業者に依頼をしてしまうのは、自分たちにできることがあるという希望を持てないことが一因ではないでしょうか。人権を無視した業者の手法に頼らなくても、できることはある。このグループに参加して、人権という観点が後ろ盾になってこその日頃の実践が大事なのではないかと感じました」

 暴力的「ひきこもり支援」施設問題を考える会は、2019年5月に発足して以来、インターネットで意見を募集。23人(女性12人、男性8人、その他3人)から意見が寄せられた。また、ネット以外にも、対話の場『ひきこもりフューチャーセッション「庵 -IORI-」』で呼びかけて参加者と話し合ったり、それぞれのメンバーが個別にヒアリングしたり、KHJ全国ひきこもり家族会連合会に意見を聞いたりして、当事者や関係者らと議論を重ね、2年余りの時間をかけて宣言を作成してきたという。

 今後は、この人権宣言の思いが、「ひきこもり支援」に対する周囲の価値観を変えるべく羅針盤になるよう社会に広めていくとともに、有識者らとともに作成する予定のメディア向け「ひきこもり報道ガイドライン」の中にも盛り込んでいく方針だ。

 同会作成の「ひきこもり人権宣言」全文は、こちらから確認することができる。https://note.com/bouhikimon/n/nbd360e7316d8

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