働き方改革やハラスメント防止、多様性の推進など、リーダーが解決すべきタスクは山積みだ。そのような難問をクリアしつつも、チームの士気を高めて成果を出すために、リーダーに求められることとは何だろうか?
リーダーとして迷いが生じたときに役立つのが、グローバル企業・ブリヂストンで社長を務めた荒川詔四氏の著書『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)だ。
本書では、世界を舞台に活躍した荒川氏が、コンプレックスと捉えられがちな「繊細さ」や「小心さ」を、むしろリーダーが大事にすべき「武器」として肯定している。多くの人を勇気づける内容に、SNSでは「最も心に刺さったビジネス書」「悩んでいることの答えがここにあった」と共感の声が多数寄せられている。
本稿では本書より一部を抜粋・編集し、部下の信頼を得られない「残念な上司」に欠けているものを説明する。(構成/根本隼)

部下に信頼されない「残念な上司」に欠けている1つの特徴Photo:Adobe Stock

一流のリーダーはみな「繊細さ」を持ち合わせている

 優れたリーダーはみな小心者である。

 本書のタイトルを見て、「そんなわけがないだろう」と思われた方も多いのではないでしょうか?しかし、私はふざけているわけではありません。株式会社ブリヂストンに身を置いて、四十余年にわたってグローバル・ビジネスの最前線で戦った経験を振り返りつつ、そう確信しているのです。

 一般に、優れたリーダーは、周囲を威圧するようなオーラを放ち、普通の人にはできないようなことを大胆にやってのける「図太い人物」というイメージがあるかもしれません。たしかに、ここぞという局面で腹をすえた決断ができることはリーダーの条件。ときには周囲の反対を押し切ってコトを成し遂げる豪胆さも求められるでしょう。

 しかし、単に神経が図太いだけでは、真の意味で優れたリーダーになることはできません。むしろ、逆です。実際、私がこれまで接してきた一流のリーダーはみな、「繊細さ」を持ち合わせていました。

「小心さ」をコンプレックスではなく「武器」と考える

 周囲の人々に細やかに気を配り、常にリスペクトの気持ちを忘れない。心配性だからこそ細部まで徹底的に自分の頭で考え抜き、臆病だからこそあらゆるリスクに備えて万全の準備を怠らない。

 だからこそ、いざというときに決然とした意思決定を下すことができる。そして、その決断を支持する人たちの力を借りながら難局を乗り越えていくのです。

 いわば、細やかな神経を束ねて図太い神経をつくる。

 これこそが、真に強靭なリーダーになる秘訣なのです。つまり、「繊細さ」「小心さ」は短所ではなく長所だということ。これらの内向的な性質をコンプレックスとして捉えるのではなく、「武器」として活かすことができる人が優れたリーダーへと育っていくのです。

入社当初は会社の雰囲気に気圧されていた

 私自身、かつては自分の「繊細さ」にコンプレックスを感じていました。もともと引っ込み思案で、人付き合いも得意ではない性格。大学では美術部に所属して、黙々と油絵を描くのが好きなおとなしい学生でした。

 そして、「ブリヂストン美術館」(現アーティゾン美術館)があるような会社だから、きっと“文化的な会社”に違いないと思い込んで、1968年にブリヂストンタイヤに入社。これが大いなる勘違いでした。

 いざ入社してみると、文化や芸術の繊細な世界とはかけ離れた、荒々しい職場だったのです。野武士のような雰囲気の先輩が闊歩する社内で、痩せてひょろひょろだった私は気圧されるばかり。「ここでやっていけるのか」と頭を抱える毎日でした。

赴任先のタイで思いもよらないトラブルに

 転機が訪れたのは入社2年目。大学でタイ語を学んでいたことが評価されたのでしょう。当時、立ち上げの真っ只中にあったタイ・ブリヂストンの工場に配属。赴任後しばらくして、「タイ人従業員による在庫管理が混乱しているので正常化してくれ」と上司に指示をされた私は、在庫管理の改革に取り組むことにしました。

 とはいえ入社2年目、何の肩書もないペーペーです。「舐められたらダメだ」。そう気負った私は、無理して強い姿勢で彼らに改善を要求。これが、思いもよらないトラブルを生み出しました。

 タイ人従業員の猛烈な反発を食らったのです。こちらとしてはスジの通った指摘をしているつもりなのに、全く言うことを聞いてくれない。それどころか、「若造のくせに威張りやがって、なんだコイツは」という態度をあからさまに取られる始末。在庫管理が適正化するどころか、職場が機能不全に陥りかけたのです。

 困り果てた私は、上司に泣きつきました。ところが、工場は24時間稼働が始まったばかりですから、まさに戦場のような忙しさ。多忙を極める上司たちも相手にしてくれない。「それはお前の問題だろう? お前が自分の仕事をできていないだけだ」と突き放されてしまいました。しかも、私自身、日常業務だけでも手いっぱい。毎日夜中まで残業しながら、在庫管理の問題まで抱え込んでしまったわけです。

追い詰められた結果とったアクションとは?

 正直、心が折れそうになりました。「もう辞めたい」とまで思いましたが、当時は国際航空運賃が非常に高額だったので、日本に逃げ帰ることもできません。「なんとかするしかない」。追い詰められた私は、そう腹をくくるほかなかったのです。

 「なぜ、うまくいかないのか?」。私なりに懸命に考えました。

 そして、頭ごなしに仕事を否定されて、反発を感じない人間などどこにもいないという当たり前のことに気づきました。そこで、こちらから現場に出向き、一人ひとりと丁寧なコミュニケーションを取り続けました。そして、「もっといい方法で在庫管理をすれば、みんなの仕事もラクになる」と提案。「そのためにはどうすればいいか?」を一緒になって考え、率先して身体を動かし、汗をかきました。

 しばらくは相手にしてもらえませんでしたが、彼らも徐々に「日本から来た生意気な野郎も、やっとわかったか」と態度を軟化。仲間に入れてくれるようになりました。そして、私が思い描いている在庫管理の理想形にも共感を寄せてくれ、それ以降は、うるさく言わなくても彼らが主体的に改革を進めていってくれるようになったのです。

「繊細さ」こそがチームを動かす

 彼らの姿を見ながら、目から鱗が落ちる思いでした。

 リーダーシップとは、相手を無理やり動かすことではない。そんなことをしても反発を食らうだけ。それよりも、魅力的なゴールを示して、メンバーの共感を呼ぶことが重要。

 そして、メンバー一人ひとりの主体性を尊重することで、チームが自然に動き出す状況をつくる。こうして結果を生み出していくことこそがリーダーシップ。そのためには、相手の気持ちを思いやる「繊細さ」こそが武器になるのだ、と気づいたのです。

(本稿は、『優れたリーダーはみな小心者である。』から一部を抜粋・編集したものです)