働き方改革やハラスメント防止、多様性の推進など、リーダーが解決すべきタスクは山積みだ。そのような難問をクリアしつつも、チームの士気を高めて成果を出すために、リーダーに求められることとは何だろうか?
リーダーとして迷いが生じたときに役立つのが、グローバル企業・ブリヂストンで社長を務めた荒川詔四氏の著書『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)だ。
本書では、世界を舞台に活躍した荒川氏が、コンプレックスと捉えられがちな「繊細さ」や「小心さ」を、むしろリーダーが大事にすべき「武器」として肯定している。多くの人を勇気づける内容に、SNSでは「最も心に刺さったビジネス書」「悩んでいることの答えがここにあった」と共感の声が多数寄せられている。
本稿では本書より一部を抜粋・編集し、上司が部下に対して絶対にやってはいけない「ある行為」について説明する。(構成/根本隼)

部下の信頼を一瞬で失う「上司が絶対にやってはいけない愚行」とは?Photo:Adobe Stock

部下を人格否定するのは愚行そのもの

 部下の「自尊心」を傷つけることほど愚かなことはない――。私は、常々そう考えてきました。

 ミスをした部下を怒鳴りつけて、「だからお前はダメなんだ」などと人格否定に走る上司を見るたびに、気分が悪くなるとともに、「なんて愚かなんだろう……」とため息が出たものです。

 もちろん、仕事に向かう姿勢に問題があったり、何度も同じミスを繰り返す部下に対しては、厳しく指導しなければならない局面はあります。しかし、その場合であっても、ビジネスの原理原則に基づいて、「何が正しくて、何が間違っているか」を伝えることが重要なのであって、それを通り越して、部下の人格を否定して「自尊心」を傷つけるような言動に走るのは愚行というほかありません。

自尊心は、人間が生きていくうえで最重要の基盤

 なぜなら、自尊心とは、人間が生きていくうえで最も重要なものだからです。

「自分は価値のある存在である」という健全な自尊心が失われたとき、人は社会のなかで居場所をもてなくなってしまう。生きていく基盤を失ってしまうのです。

 だから、自尊心を高めてくれる相手を大切に思う一方で、自尊心を傷つける人間に対しては強い敵意を抱く。それは、皆さんご自身の経験を振り返っても実感できることではないでしょうか。

 この敵意が、リーダーシップを根っこから破壊します。

 相手が権力をもつ上司であれば、その敵意をむき出しにすることは稀だとは思いますが、その結果生み出されるのは面従腹背。口では「Yes」と言いながら、腹の中では「No」と思っている。

「Yes」と聞いた上司は満足するかもしれませんが、その陰で進行するのはサボタージュ。部下は「敵」とみなした上司に対して、サボタージュという形でひそやかな抵抗を続けるのです。

部下は上司を3日で見抜く

 これは実に繊細な問題です。「だからお前はダメなんだ」などと、部下の人格を否定するのが論外なのは当然のことですが、そこまであからさまでなかったとしても、心のなかで「こいつはダメだな」と思っていれば、その気持ちは必ず部下に伝わってしまうからです。

「上司は部下を理解するのに3年かかるが、部下は上司を3日で見抜く」といわれますが、これは真理です。直属の権力者である上司の一挙手一投足を、部下はじっと観察しています。ちょっとした仕草、ちょっとした言動から、上司の真意を敏感に読み取るのです。

 だから、ごまかしがきかない。上司がどんなに自尊心を傷つけないことを意識して“演技”をしたところで、部下は一瞬で、上司が仮面をつけていることを見破ってしまうのです。

仕事と人格は全くの別問題

 では、どうすればよいか?実は、私も、いまだに明確な答えはもっていません。

 もちろん、守るべき指針はあります。仕事と人格は別問題と明確に区別することです。仕事は結果がすべてであり、結果を出すことができなかった部下には、それなりの評価をつけざるを得ませんが、たとえ低い評価をつけたからといって、それはあくまで仕事の評価。人格とは無関係の問題なのです。

 そもそも「地位の差」など、「人格の差」でも「人間性の差」でも「人間力の差」でもない。にもかかわらず、地位が上だというだけで、「あいつより自分のほうが価値ある人生を送っている」などと腹のなかで思って、偉そうな態度をとる人物を見るとバカに見えてくるというのが、多くの人の共通した気持ちだと思います。

 だから、仕事の評価にかかわらず、すべての部下を自分と同じ人間として尊重する方が絶対に「得」です。こんなことでバカに見られたくないですからね。そして、バカだと思われたらリーダーは務まりませんから、この姿勢を徹底することはリーダーとしての絶対条件でしょう。

自分が思い上がっていないか常に自問自答すべし

 しかし、人間とはどこまでも度し難いものです。どんなに気を付けていても、間違った心が忍び寄ってくる。だから、結局のところ、

「自分は未熟な人間である」

「他者より絶対的に優れているところはない」

「他者からしか学べない」

 という自覚を持ち続けるしかないのではないでしょうか。

 そして、常に自分の言動が誰かの自尊心を傷つけていないか、逆に言えば、「自分を貶めて」いないかと自問する。そうして自らを律していくしかないと思うのです。その意味でも、リーダーは小心者であるべきなのです。

(本稿は、『優れたリーダーはみな小心者である。』から一部を抜粋・編集したものです)