働き方改革やハラスメント防止、多様性の推進など、リーダーが解決すべきタスクは山積みだ。そのような難問をクリアしつつも、チームの士気を高めて成果を出すために、リーダーに求められることとは何だろうか?
リーダーとして迷いが生じたときに役立つのが、グローバル企業・ブリヂストンで社長を務めた荒川詔四氏の著書『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)だ。
本書では、世界を舞台に活躍した荒川氏が、コンプレックスと捉えられがちな「繊細さ」や「小心さ」を、むしろリーダーが大事にすべき「武器」として肯定している。多くの人を勇気づける内容に、SNSでは「最も心に刺さったビジネス書」「悩んでいることの答えがここにあった」と共感の声が多数寄せられている。
本稿では、リーダーにとって「繊細さ」が重要な理由を解説する。(構成/根本隼)
人口減で人手不足が慢性的に続く
いま、業種や業態を問わず様々な組織で、人手不足が慢性化している。少子高齢化の影響で、仕事の中心的な担い手となる生産年齢人口(15~64歳)が減少し続けているためだ。最新のデータでは、2021年7月の生産年齢人口は約7466万人で、ピークだった1995年と比べると15%近くも縮小している。
特に、中小企業における人手不足は深刻さの度合いを増している。「中小企業白書」(2021年版)によると、2014年以降はほぼ一貫して、建設業やサービス業を中心に全ての業種で従業員が不足している状態にあり、人手繰りの厳しい情勢が続いている。
日本の総人口は今後も右肩下がりの状態が続き、2050年には1億人を割るとも予想されているため、生産年齢人口が回復に向かう見込みは現時点では低いと言わざるを得ない。
多様性の推進が企業にとって必要不可欠
このように、仕事の担い手不足は一時的な現象ではなく、日本が長期的に抱えていく社会課題だ。したがって、こうした状況のなかで企業が今後も競争力を維持して成長し続けるには、年齢や性別、国籍といった属性を問わず多様な人材を積極的に活用していかなければならない。
そのため、働く意欲のある多様な個人が、それぞれの能力を存分に発揮できる環境づくりが必要不可欠になっている。
実際、いま数多くの企業が多様性推進の施策に取り組んでおり、女性社員の採用比率や障がい者の雇用者数などの数値をホームページで公表しているケースも多い。
若者の間で「頑張りすぎない」価値観が広がる
働き手の意識にも変化が起きている。日本生産性本部が実施した、新入社員を対象にした「働くことの意識」調査(2019年度版)によると、若い世代を中心に仕事に対する価値観が多様化し、経済的な豊かさや出世よりも「楽しい生活」を重視する人が増えているという。
また、同調査での「人並み以上に働きたいか」という質問に対して、かつては「人並み以上に働きたい」という答えが「人並みで十分」という回答を上回ることもあったが、近年は「人並みで十分」と回答する人が増加している。2019年度の調査では「人並みで十分」と答えた人が過去最高の63.5%を記録する一方、「人並み以上に働きたい」という人は過去最低の29.0%だった。
「若いうちは進んで苦労すべきか」という質問項目でも、「好んで苦労することはない」と回答する人が過去最高の割合となるなど、若者世代では仕事について「頑張りすぎない」「無理をしない」という価値観が広まっていることがうかがえる。
「トップダウン型」だと組織の多様性は育めない
いまの時代のリーダーは、このように新しいキャリア観や意識を持つ若者、そして様々なバックグラウンドを持つ人材どうしが共存し、活躍していける環境をつくるというチャレンジングな使命を背負っている。
そうした職場環境を整えるにあたって、上層部が次々と意思決定を下して現場社員を動かしていく「トップダウン型」組織だと、スピード感のあるマネジメントが可能な一方で、単一的なものの見方に陥りやすく、多様な働き方や価値観を認め合う雰囲気は生まれにくい。
現代は社会経済状況の変化が急激で、先の見通しを立てるのが極めて難しい「VUCA」の時代とも呼ばれている。このような状況下では、幅広い視点に立った多様な意見を取り入れるプロセスを重視しないリーダーは、決定的な判断ミスを犯しやすくなってしまう。
それでは、互いの価値観や働き方の違いを受け入れ、メンバーを成長に導きつつも、必要に応じて思い切った意思決定を下し、組織やチームのパフォーマンスを向上させられる「バランスのとれたリーダー」になるには、何が必要なのだろうか?
迷ったときに心の支えになる「リーダーシップの教科書」
リーダーとしてのあり方に迷ったときに心の支えになるのが、日本を代表するグローバル企業・ブリヂストンで社長を務めた荒川詔四氏の著作『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)だ。
本書は、どんな時代であってもブレることのないリーダーシップの本質が明かされていて、上司・リーダーとして悩んだときに読めば原点に立ち返ることができる。
「繊細さ」こそが組織を成功に導く
リーダーと聞くと、圧倒的な存在感でメンバーを引っ張っていく豪快な姿を想像しがちだが、むしろ「繊細さ」や「小心さ」こそが優れたリーダーになるための「武器」だと荒川氏は述べている。
多くの人は「小心さ」をコンプレックスと捉え、そのために「自分はリーダーに向いていない」と思ってしまいがちだ。しかし、そのような心の「こまやかさ」があるからこそ、リスクやトラブルに対して事前に万全の備えができ、様々な意見を持つメンバーとの丁寧なコミュニケーションを通じた良質な意思決定も可能になる。
時代が移り変わり、構成員の価値観や属性がいかに多様化しても、成果を出せる優秀なリーダーになるために守るべき鉄則は不変だ。リーダーとしての基本原則に忠実であれば、必ず世界のどこでも通用するリーダーになれる、という荒川氏の思いが込められた『優れたリーダーはみな小心者である。』の内容の一部を、次回以降の連載で公開していく。