声優・緒方恵美と花澤香菜の演技に脱帽
名優の演技におじさん落涙

 さて、ここまでつらつら述べてきたが、本稿を書くに当たってかねて「もっとも熱く語りたい」と思っていた点に取りかかりたい。声優の演技である。
 
 今回の主人公はちょっとなよっとした、自分が死刑になることを望んでいるような男子高校生である。映画公開前からすでにネットでも人気の高かったキャラクターであるが、声優を『エヴァンゲリオン』の碇シンジ役などで有名な緒方恵美氏が務めると発表されたのを聞いた時、正直なところ「そうきたかー」と少し不安も感じた。原作ファンはその脳内の数だけ声のイメージを持っていて、筆者もその一人として緒方恵美氏の声はあまり合っていないように思ったのである。
 
 しかし、映画公開前の短いPVを見て、筆者は自身の浅はかさを恥じ、緒方氏に心中、心底おわびした。PVのほんの数カ所のセリフを聞いただけで、あの主人公の声は緒方氏以外にあり得ないと思うようになり、キャスティング担当と緒方氏に深く感謝した。何度もPVを見返し、緒方氏のセリフのところを何度も巻き戻して見て、劇場に行って早くその声を堪能したく願うまでになった。そして念願かなって劇場で緒方氏の声を聞き、興奮のるつぼへと至った。
 
 ご本人のインタビューを拝読したところ、役作りにかなり苦労されたようであるが、最終的に出てきた演技がかくものクオリティーであるから、これはもうさすがとしか言いようがない。あのレジェンドクラスの声優は、自身を作品に寄せつつ自身の色で作品を(いい方向に)染め上げるパワーがある。脱帽である。
 
『劇場版 呪術廻戦 0』の声優陣は極めて豪華で、その演技は皆一様に素晴らしかったが、やはりもう一人特筆しておきたいのがヒロイン(と言ってもいいのであろうか、怨霊となった少女である)を務めた花澤香菜氏である。この人もオンリーワンの色を持つ実力派であり、聞いているだけで恍惚(こうこつ)とさせられるような声を発してくれる。
 
 緒方氏がインタビューで明かした、本作のアフレコの現場で起きたあるエピソードがある。花澤氏が終盤のヒロインのセリフを演じた声が、緒方氏がいるロビーにうっすら漏れて聞こえてきたとき、緒方氏は「すばらしすぎて鳥肌が立つほど」だったと言い、ロビーに居並ぶスタッフが全員ぼろぼろに泣いたというのである。
 
 そんなこと本当にあり得るのかと思われるが、その真偽を確かめに劇場に足を運ぶのもいいかもしれない。なお、筆者はそのエピソードを聞いて「ほらな!おじさんも泣いたもん」と誇らしかった。それくらい花澤氏の演技はすさまじかった。
 
 ちなみに筆者は映画開始から10分で2回落涙し(アゴに涙が達するほどの落涙を1回とカウント)、「この映画鑑賞は一応取材だから、泣いた回数をカウントしよう」と冷静な視点を保持していたが、途中5回を超えたあたりからだんだんぼうっとして、どうでもよくなってきて、もはや数は数えず感動に殴られるままに身を任せた。上映終了直後は泣きすぎたため目が腫れてまぶたが重く、心地よい頭痛がし、陶然としてしばらく座席から立てなかった。深い満足と充実感であり、この上なき映画体験であった。

『劇場版 呪術廻戦 0』は、全ての人に薦めたい珠玉のエンターテインメント作品である。