世襲の各地藩主が領地と領民を支配し、身分制度の下で税を徴収、徳川幕府と分けて統治していた江戸時代の幕藩体制は、神聖ローマ帝国の領邦制と似た仕組みだった。日本各地の藩は、転封(移動)がいろいろあったとはいえ、基本的な構造は270年も続いた政治と文化と生活の単位である。この幕藩体制を、現在の中央政府と47都道府県体制に変革したのが明治維新後の「廃藩置県」だった。2021年は明治天皇の「廃藩置県の詔」からちょうど150年。千葉県文書館が、藩から県への複雑な変遷の詳細を展示しているというので見に行った。(コラムニスト 坪井賢一)
現在の千葉県には
日本で一番多くの藩があった
千葉県文書館は2月26日まで、「房総の廃藩置県―千葉県誕生までの移り変わり―」と題した企画展を公開している。
どうして千葉県文書館が廃藩置県の資料を企画展のテーマにしたのかというと、現在の千葉県には日本で一番多くの藩があったからなのだそうだ。廃藩置県前年の1870(明治3)年時点で、なんと25藩もあったという。小藩ばかりだったそうだ。
これらの藩は廃藩置県で自動的に県となったので、現・千葉県の範囲に(いったん)これだけの数の県が「できちゃった」のである。
房総半島の25藩を書き出してみる(一部、現在の地名にその名を残す藩名)。
【下総国】
【1】結城藩(その後、茨城県に)
【2】古河藩(同)
【3】関宿藩(同)
【4】高岡藩(現在の成田市高岡にあった)
【5】小見川藩(香取市小見川)
【6】多古藩(香取郡多古町、小さな親藩)
【7】佐倉藩(房総最大の大藩、堀田家の所領)
【8】曾我野藩(千葉市中央区蘇我)
【9】生実藩(「おゆみ」と読む。千葉市緑区おゆみ野)
【上総国】
【10】松尾藩(維新後に掛川から移封、山武市松尾町)
【11】大網藩(大網白里市。維新後に短期間存在)
【12】菊間藩(維新後に沼津の水野家が移封。市原市菊間)
【13】鶴牧藩(市原市椎津)
【14】桜井藩(請西藩の跡地に配された ※注)
【15】飯野藩(富津市下飯野)
【16】小久保藩(維新後に相良から移封、富津市小久保)
【17】佐貫藩(譜代の小藩、富津市佐貫)
【18】久留里藩(新井白石の出身藩、君津市久留里)
【19】鶴舞藩(維新後に浜松から移封、市原市鶴舞)
【20】一宮藩(譜代の小藩、長生郡一宮町)
【21】大多喜藩(譜代の小藩、夷隅郡大多喜町)
【安房国】
【22】花房藩(維新後に横須賀から移封、鴨川市)
【23】勝山藩(譜代の小藩、安房郡鋸南町)
【24】長尾藩(維新後に駿河から移封、南房総市白浜町)
【25】館山藩(譜代の小藩、館山市)
※注 現・木更津市の請西藩(後に桜井藩)は、なんと藩主自ら脱藩して幕軍の遊撃隊に入り、戊辰戦争に参戦。藩主林忠崇は生還したものの戦後すぐに改易(所領没収)されている。戊辰戦争後に改易となった唯一の大名として知られる。林は明治、大正、昭和と生き、1941年に「最後の大名」として92歳で没している。