一冊の「お金」の本が世界的に注目を集めている。『The Psychology of Money(サイコロジー・オブ・マネー)』だ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙のコラムニストも務めた金融のプロが、資産形成、経済的自立のために知っておくべきお金の教訓を「人間心理」の側面から教える、これまでにない一冊である。世界43ヵ国で刊行され、世界的ベストセラーとなった本書には、「ここ数年で最高かつ、もっとも独創的なお金の本」と高評価が集まり、Amazon.comでもすでに10000件以上の評価が集まっている。本書の邦訳版『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』が、12月8日に発売となった。その刊行を記念して、本書の一部を特別に公開する。
勢いがある資産は、短期トレーダーを魅了する
どんな資産クラスでも、投資をする人によって、目的や時間軸は異なる。そのため、ある人にとっては馬鹿げた価格でも、別の人にとっては意味のある価格になる。人によって、何を重視するかは違うからだ。
1990年代のドットコムバブルを例に取ろう。1999年のヤフーの株価を振り返り、「あれはまったくどうかしてたよ! 収益にまったく見合わない、査定の意味もない法外な価格だった」という印象を持つ人は多いだろう。
だが、1999年にヤフー株を持っていた人は、投資の時間軸が極めて短かったため、とんでもない価格を払ってでもこの株を買うことに十分な意味があった。デイトレーダーは、ヤフー株の1株当たりの価格が5ドルだろうが500ドルだろうが、その日のうちに自分にとって都合の良い方向に動きさえすれば目的を達成できた。そして、実際にその通りのことが何年も続いた。
金融の世界には、「お金は儲かるところに引き寄せられる」という鉄則がある。ある投資資産に勢い(モメンタム)があれば(すなわち、一定期間、一貫して上昇していれば)、短期的なトレーダーにとって、その投資資産が今後も上昇し続けると考えるのはおかしなことではない。
いつまでもその勢いが続くわけではないが、短い期間では続くだろうと見込むことはできる。だから勢いのある投資資産は、合理的な理由によって短期トレーダーを魅了するのだ。
なぜバブルは起きるのか?
そしてバブルとは、この短期的なリターンの勢いが増し、そこに資金が集まり、長期的ではなく、短期的な視点で投資する人が大勢参加することでつくり出される。
このプロセスは、雪だるま式に大きくなる。トレーダーが短期的なリターンを押し上ることで、さらに多くのトレーダーが集まる。しばらくもしないうちに(実際、たいてい時間はかからない)、短期的な視点で投資する人たちが、市場の価格を決めるようになる。
つまりバブルとは、投資資産の評価が上がったために起こるわけではない。バブルとは、短期的なトレーダーが増え、投資の時間軸が短くなったことの表れなのだ。
(本原稿は、モーガン・ハウセル著、児島修訳『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』からの抜粋です)
ベンチャーキャピタル「コラボレーティブ・ファンド社」のパートナー。投資アドバイスメディア「モトリーフル」、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の元コラムニスト。
米国ビジネス編集者・ライター協会Best in Business賞を2度受賞、ニューヨーク・タイムズ紙Sidney賞受賞。妻、2人の子どもとシアトルに在住。