先週はアップルが、そして今週はFRBが注目すべき発表をしました。一見まったく関係ない両者の発表から学べる大事なインプリケーションがあるのではないでしょうか。それは、グローバル化とデジタル化という構造変化への対応の難しさです。
アップルの米国回帰で
本当に雇用は回復するか
アップルが、来年から一部のパソコンの生産を米国で行うことを表明しました。これまでアップルはグローバル化の果実を最大限に活用し、グローバルなサプライチェーンを構築して中国で最終組み立てを行うことで利益を最大化してきたことを考えると、大きな方針変更のように見えます。
オバマ大統領が、リーマンショック後なかなか雇用情勢が好転しない中で、アジアに流出した米国製造業の工場の国内回帰を促すことで雇用を創出しようとしていることに応えたようにも見えるので、米国での製造業の復権の象徴となるのを期待する声が上がるのも当然でしょう。
しかし、実際には、今回のアップルの動きをそこまで高く評価することは難しそうです。
まず、アップルが米国内での生産のために投資する金額は1億ドル(約82億円)であり、この程度の金額では大した規模の生産拠点は作れません。1億ドルはアップルの四半期の利益の100分の1の規模に過ぎないので、アップルは話題作りのためにやるのではないかという懐疑的な意見も出ている位です。
かつ、アップルは、パソコンの部品の生産を米国内で行う(“build more of the Mac's ingredients domestically”)と発言していますが、この点に留意すると、アップルの真の狙いがなんとなく見えてくるような気がします。それは“グローバル化とデジタル化のベストミックスの追求”ではないでしょうか。
この数年の間、製造業では工場のデジタル化がどんどん進んでいます。そうした中で、パソコンの生産現場では、一番付加価値の高いマザーボード(プロセッサーやメモリーなどの基幹部品が付けられた基盤)はIT化されたロボットが作れるようになっており、極言すれば人間がやるべき作業はバッテリーやスクリーンを取り付ける位に限定できます。
今やノートブックの小売価格に占める労働コストは4~5%程度ですが、中国では工場労働者の時給がだいたい2.5ドルであるのに対して米国では時給15ドルですので、コスト管理にうるさいアップルが、中国と同じ形での人間を多く使った生産を米国内で行うとは考えられません。