新型コロナの感染状況が悪化する中、リモートワークの必要性が高まっているが、リモートワークでは仕事の効率が上がらないという声も多い。「生産性が上がらない」「人間関係がうまくいかない」といった組織の問題を、心理学、脳科学、集団力学など世界最先端の研究で解き明かした『武器としての組織心理学』を紹介しよう。著者は、立命館大学の山浦一保教授。「妬み」「温度差」「不満」「権力」「不信感」といった組織に蔓延するネガティブな感情を掘り下げながら、効果的なリーダシップをひもとく画期的な1冊だ。本稿では、「リモートワークで仕事の生産性は上がるのか?」という疑問について、特別に本書から一部を抜粋・編集して紹介する。
リモートワークの普及で、個人の働きやすさが高まる一方で、人間同士の物理的な距離が広がり、以前よりもコミュニケーションが難しくなったと感じている人も多いでしょう。
特に、リーダーやマネジャーの立場にある人にとって、離れた距離で働くチームで成果をあげるために、どのようにリーダーシップをとっていくかが試される時代です。
テレワークで、ストレスは下がるのか?
ベルギーのルーヴェン・カトリック大学の研究グループは、ベルギーの企業である実験を行いました。[1]
[介入(テレワーク)群]に割り当てられた社員たちは、最大週2日の在宅勤務を許可されました。
一方、[コントロール群]に割り当てられた社員たちは、在宅勤務を許可されていませんでした。
3ヵ月を経た結果、[テレワーク群]の方が、[コントロール群]に比べてストレスのレベルが統計的に有意に低下しました。
ベルギーの通勤時の交通事情は相当な混雑ぶりのようです。この結果は、おそらく通勤時間が減ったこと、同僚の割り込みが減ったことなどによると考えられています。
テレワークで、仕事の生産性は上がるのか?
ちなみに、これら2つの群を比べたとき、仕事のパフォーマンスには差異が見られませんでした。
しかし、[テレワーク群]の社員について詳しく見てみると、([コントロール群]との違いではなく)テレワークの日かどうかによって、仕事のパフォーマンスに違いが認められました。
テレワークの日は、職場勤務日に比べてストレスの程度が低く、加えて、仕事に集中できており、パフォーマンスが高かったのです。
この研究が示唆するように、ときどきいつもとは違う環境で仕事をすること、環境の違いを感じ取れる状態が、私たち働く者の心と活動のバランスをほどよく保ってくれる可能性があります。
もしそうであるならば、上司や仲間との交流は保ちつつ、時間・業務内容限定で導入するフリーアドレス(とくに空間そのものを自分で決めること)なども一定の効果を持つことでしょう。
脚注:[1]Delanoeije, J., & Verbruggen, M.(2020). Between-person and within-person effects of telework: a quasi-field experiment. European Journal of Work and Organizational Psychology, 29(6), 795-808.
(本稿は、『武器としての組織心理学』から抜粋・編集したものです。)