「風」なき自民党の地滑り的大勝利:
小選挙区制の威力を、肯定的に考える
衆議院総選挙で、自民党(294議席)と公明党(31議席)で325議席を獲得した。参院で否決された法案を衆院で再可決できる、3分の2以上の議席数を確保する、圧倒的な大勝利だ。しかし、今回の総選挙は2005年・2009年と異なり、自民党に「風」が吹いたわけではなかった。民主党政権の失政に対する「懲罰」として、自民党が消極的に選択されただけだ。それがこれだけの圧勝となったことで、国民の間に戸惑いが広がっているようだ。
小選挙区制が、自民党(296議席)→民主党(308議席)→自民党(294議席)と振り子のように第一党を入れ替える威力を持つことは、よく知られてきた。だが、これまでは「風が吹いた」選挙だったために、その本当の威力が隠されてきた。今回は、「風」が吹かなかったにもかかわらず、自民党の地滑り的大勝利となったことで、国民は改めて小選挙区制の凄まじさを認識させられたといえる。
個人的には、今回の結果は想定の範囲内で驚きはない。しかし、巷には小選挙区制に対する批判が広がり始めているようだ。批判は、振り子のように議席数が増減するだけではない。自民の獲得議席数が、比例代表では定数の3割程度なのに、小選挙区では定数の8割を占めているように、自民党が衆院選で獲得した圧倒的な議席数が、民意と乖離しているという批判もある。
更に、小選挙区制では選挙区で1位になった候補者だけが当選し、たとえ1票差の接戦でも2位以下はすべて落選となり死票だらけになることも、民意の反映という点で疑問を呈されている。今後、中選挙区制の復活や比例代表制の拡大の主張が展開されていく可能性は高い。
だが、この小選挙区制の威力は、むしろ肯定的に考えるべきではないだろうか。日本政治では、少数意見が過度に尊重され過ぎてきた。中小政党が、少数者の利益を強引に実現しようとしてきたことが、歴代政権の意思決定を混乱させ、財政赤字拡大を招いてきたのだ。今の日本政治に必要なのは、財源を考慮してさまざまな政策の優先順位を付けた包括的な政策パッケージを作る「政権担当能力」を持つ大政党であり、大政党に議会での安定多数を与えて円滑な意思決定を可能にする小選挙区制なのである(第42回を参照のこと)。