レビュー
本書『ビジネス小説 もしも徳川家康が総理大臣になったら』はタイトルのとおり「もしも徳川家康が総理大臣になったら」日本はどうなるかを描く、SFビジネス小説である。AIとホログラムによって歴史の偉人たちが現代日本に蘇り、最強内閣を発足。新型コロナ感染症で未曾有の大混乱にある日本の窮地を救う、という設定だ。この内閣、なにしろ最強内閣である。総理大臣は徳川家康、官房長官は坂本龍馬だ。さらに、経済産業大臣に織田信長、財務大臣に豊臣秀吉を迎える。また、天下の発明家、平賀源内がIT担当大臣に、米将軍・徳川吉宗が農林水産大臣に配置されていたりと、これだけでワクワクしてしまう。
本書はただの荒唐無稽な物語ではない。最強内閣が採る政策は、現代日本の政治と社会が抱える問題を浮き彫りにする。家康は、現代に蘇った自分たちの役目は「日本の仕組みを変えること」だと語る。日本の社会システムが限界を迎えていることはすでに指摘されているが、では具体的にどうすればいいのか、その正解を知る者は誰もいない。本書の最強内閣が示す方針はその答えの可能性のひとつとなるだろう。
政治や社会制度の思考実験として、本書は興味深い視座を与えてくれる。また、北条政子がSNS炎上事件を受けて演説を行ったり、新選組が給付金不正受給者を検挙したりと、誰もが知る偉人たちが現代日本で活躍する様子はエキサイティングで、読み物として惹きこまれる魅力がある。
日ごろから政治に関心がある人はもちろん、そうでない人も、本書を私たちの住む日本の「仕組み」について考えるきっかけにしてほしい。(千葉佳奈美)