仕事、人間関係…周囲に気を使いながらがんばっているのに、なかなかうまくいかず、心をすり減らしている人も多いのではないだろうか。注意しているのに何度も同じミスをしてしまう、上司や同僚といつも折り合いが悪い、片付けが極端に苦手…。こうした生きづらさを抱えている人の中には、「能力が劣っているとか、怠けているわけではなく、本人の『特性』が原因の人もいる」と精神科医の本田秀夫氏は語る。
本田氏は、「生きづらさを感じている人は『苦手を克服する』ことよりも、『生きやすくなる方法をとる』ほうが、かえってうまくいくことも多い」と言う。
2021年9月に、本田氏が精神科医として30年以上のキャリアを通して見つめてきた「生きづらい人が自分らしくラクに生きられる方法」についてまとめた書籍、『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』が発売となった。今回は特別に本書の中から、一部内容を抜粋、編集して紹介する。
「大事なものの位置」を把握できていればOK
片付けが苦手、という悩みもありますね。
散らかっていたとしても、何をどこに置いているか、本人が位置をわかっているのであれば、周りから注意されたとしてもさほど問題にはならないでしょう。
一方で、何がどこに置いてあるかわからない、重要な書類などをなくしてしまう、といった場合、自分だけの問題ではなく、会社を巻き込んでしまうこともあるため、悩みが深刻になりがちです。
片付けたほうがいいとわかっていても、道具を使うたびに元の場所に戻すこと、不要なものを処分することなど、片付けに必要な作業を苦手とする人もいるでしょう。
計画的・規則的に行動することが苦手だったりして、そのときどきの流れで行動することを好むからです。
このような場合、「ものの置き場所を決めればいい」「毎日少しずつ片付ければいい」「持ち物を減らせばいい」といったアドバイスが役に立たない可能性があります。
最近では「書類はスキャンして電子ファイル化すればいい」「ファイル名で簡単に検索できる」というアドバイスもよく聞きますが、片付けが苦手な人は基本的に、パソコンのなかの整理整頓も苦手で、デスクトップがごちゃごちゃになりやすく、どのデータがどこに入っているかわからなくなる、というケースもあります。
散らかっていても大事なものは管理できていて、生活や仕事に大きな支障がないのであれば、無理して整理する必要はありません。
大事なものの位置を把握できる程度に片付けをしていれば、それでいいでしょう。
医療機関への相談を検討したほうがいい場合とは?
一方、生活や仕事に明らかに支障が出ているのなら、なんらかの対応が必要です。
たとえば、家のカギを何度もなくしてしまう場合や、仕事のデータをどこかに置き忘れてしまうような場合には、生活に影響が出ます。
本当は片付けができればいいのですが、片付けがどうやっても苦手な人は、「ものをなくしやすい」という前提で、「重要なものを預からないようにする」といった次善策をとっていくのが現実的でしょう。
対処しきれない場合には、医療機関に相談することを検討しましょう。
片付けができないせいで、仕事や日常生活に支障をきたしている場合、医療的な支援を受けることで、問題解決をはかることもできます。
(本原稿は、本田秀夫著『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』より一部抜粋・改変したものです)
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長
特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事
精神科医。医学博士。1988年、東京大学医学部医学科を卒業。東京大学医学部附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年、信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長。2018年より、同子どものこころの発達医学教室教授。発達障害に関する学術論文多数。英国で発行されている自閉症の学術専門誌『Autism』の編集委員。日本自閉症スペクトラム学会会長、日本児童青年精神医学会理事、日本自閉症協会理事。2019年、『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)に出演し、話題に。著書に『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』(ダイヤモンド社)、『自閉症スペクトラム 10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体』『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(以上、SBクリエイティブ)、共著に『最新図解 女性の発達障害サポートブック』(ナツメ社)などがある。