私事で恐縮だが、15日放送のテレビ朝日「林修の今でしょ!講座」に解説役として出演した。番組のテーマは「地下鉄の父」こと早川徳次の生涯。早川が妻に宛てた手紙や、記入したメモなど、おそらくテレビでは初公開の史料の紹介や、有名なエピソードについても具体的な内容や、その意義に触れたことなど、これまでの番組とは一線を画した内容になったのではないかと思っている。それでもゴールデンタイムに一般視聴者に向けて伝えるテレビでは、どうしても分かりやすさを優先するために「誇張」や「省略」が行われてしまう。そこで今回は早川徳次について、番組では省略または取り上げなかった部分に光をあてる「アナザーストーリー」をお届けしたい。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

机上の学問ではなく
実社会の学問を目指した理由

東京地下鉄道1000形1001号車東京都江戸川区の地下鉄博物館に展示されている日本初の地下鉄車両「東京地下鉄道1000形1001号車」 Photo:PIXTA

 早川徳次は1881年、山梨県に生まれた。早川が早稲田大学出身なのは割と知られた話だが、実は旧制甲府中学を経て最初に進学したのは現在の岡山大学の前身のひとつである旧制第六高等学校だった。

 早川は情熱的かつ大胆で、純真かつ繊細な人間であった。例えば旧制中学時代、ある教師を排斥するために生徒が連帯して登校を拒否するという事件があった。しかし早川は、この抗議には賛同できないとして一人で登校し、一人で授業を受けた。