16年にわたり医療現場で1000人以上の患者とその家族に関わってきた看護師によって綴られた『後悔しない死の迎え方』は、看護師として患者のさまざまな命の終わりを見つめる中で学んだ、家族など身近な人の死や自分自身の死を意識した時に、それから死の瞬間までを後悔せずに生きるために知っておいてほしいことを伝える一冊です。
今回は、『後悔しない死の迎え方』の著者で看護師の後閑愛実さん、飯塚病院の連携医療・緩和ケア科部長で緩和ケア医の柏木秀行先生、大森崇史先生、緩和ケア認定看護師の宮崎万友子さんによる対談をお届けします。
(この対談は2019年11月に行われたものです)

【看取りの現場の医師と看護師から】人はいつ話せなくなるかわからない。親のためにも自分のためにも元気なうちに確認しておきたいことPhoto: Adobe Stock

誰もが「偏った見方」をする

【看取りの現場の医師と看護師から】人はいつ話せなくなるかわからない。親のためにも自分のためにも元気なうちに確認しておきたいこと後閑愛実(ごかん・めぐみ)
正看護師
BLS(一次救命処置)及びACLS(二次救命処置)インストラクター
看取りコミュニケーター
看護師だった母親の影響を受け、幼少時より看護師を目指す。2002年、群馬パース看護短期大学卒業、2003年より看護師として病院勤務を開始する。以来、1000人以上の患者と関わり、さまざまな看取りを経験する中で、どうしたら人は幸せな最期を迎えられるようになるのかを日々考えるようになる。看取ってきた患者から学んだことを生かして、「最期まで笑顔で生ききる生き方をサポートしたい」と2013年より看取りコミュニケーション講師として研修や講演活動を始める。また、穏やかな死のために突然死を防ぎたいという思いからBLSインストラクターの資格を取得後、啓発活動も始め、医療従事者を対象としたACLS講習の講師も務める。現在は病院に非常勤の看護師として勤務しながら、研修、講演、執筆などを行っている。著書に『後悔しない死の迎え方』(ダイヤモンド社)がある。
撮影:松島和彦

後閑愛実さん(以下、後閑):以前に、心不全で入院してきた、ご高齢ですでに衰弱していた患者さんに、本人が「苦しい苦しい」と言うので、心不全の治療薬を注射したんです。医師は、本人が苦しいと言っているし、ちょっと試してみたいというところもあったようです。そうしたら、よくなったんですね。

だから、「これは使ってよかったんだ」と、その時はみんな思ったんです。

でも、ひと月くらいしたらまた悪くなって、その時はもう呼吸も苦しそうだけれど意識がありませんでした。なので看護師たちは、「本人は意識がないし、心不全で長く頑張ってきたので、もう身体は衰弱してしまっているし、このまま静かに見送るのでいいんじゃないか」と思ったんです。

そもそも家族も「今まで苦しんできたから、もう苦しまないように静かに逝かせてほしい」と言っていましたから。けれど医師は、「前に使って良くなったから、今回も使ってみよう」と言いだしたんです。

それで、また使ったんです。

すると、少し意識が戻ったのですが、「苦しい、苦しい」が始まって……そんな苦しい時間を長く過ごして、最後まで苦しんで亡くなりました。

病気の治療より症状緩和を優先させたかった、私を含め看護師たちは、「あの苦しんだ時間はなんだったんだろう」と悶々としました。

医師の中には一度良くなったという成功体験があるから、今回も病気の治療をしたほうがいいと思ったんでしょうけれど……。

大森崇史先生(以下、大森):いや、100分の1でも成功したことがあれば、引っ張られますよ。患者さんからしたら1分の1なんですけれどね。一度成功してしまうと、これをやったらいいんじゃないか、というのがあるんですよ。

柏木秀行先生(以下、柏木):その辺りはバイアスだと思っていて、昔のことですが循環器の先生から「柏木くん、これで治って帰る人もおるんよ」と言われて、「そうですか、どれくらいおるんですか?」と聞いてみたら、1人か2人なんです。

一方で、僕らが「これは症状緩和に専念したほうがいい」と思うのは、「よかれと思って治療したらQOL(生活の質)が失われていった」という光景をよく見てきているからで、そっちのバイアスがあるんですよね。