【看取りの現場の医師と看護師から】人はいつ話せなくなるかわからない。親のためにも自分のためにも元気なうちに確認しておきたいこと大森崇史(おおもり・たかし)
飯塚病院連携医療・緩和ケア科勤務
日本内科学会認定内科医、日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医
急性期医療と慢性期医療の架け橋となれるような存在を目指し、地域医療に貢献している。九州心不全緩和ケア深論プロジェクトのメンバーとして心不全緩和に関する活動も行っている。

柏木:多くの患者さんに適切な医療内容は、その間にあるんです。ただ、バイアスはゼロにはできないから、自分はそういうバイアスを持っているんだと、メタ認知してすり合わせる。さっきお話しした循環器の先生みたいな医師とぼくみたいな医師の間で建設的な議論ができるといいんですけれど、医師同士がこれを建設的に議論するというのは難しいんです。「あいつはわかっていない」となってしまうんですよね。そういうトレーニングを受けていませんからね。

後閑:医療者同士に限らず、患者さんや家族も自分の意見をちゃんと伝えて、お互いの意見をすり合わせながら治療できたらいいんですけれど。

大切にしてほしい「どう生きるか」という物語

大森:今はネット社会なので、ちょっと調べれば心不全の新薬がどれとか、この薬でこれくらい助かったというエビデンス情報はたくさん集まってくると思います。それもいいんですけれど、その人がどんなふうに生きてきて、今後どのような経過をたどって、どう生きていくのか、ということはなかなか注視されないんですよね。

死を避ける文化というか、縁起でもないことは言わない、そういったことが根強くあるとは思いますし、医学的な情報も大事だけれども、そこから少し離れて、どんな生き方をしてきて、どんな価値観を持っているのか、そういった考えを同時に持つことがよい医療との付き合い方だと思うので、広い視野を持ってほしいというのが僕の思いです。そのために僕たち医療者も働きかけないといけないな、と思います。

宮崎万友子さん(以下、宮崎):以前、ご遺族にこう言われたことがあります。「あなた、ご両親まだお元気なんでしょう。絶対お葬式で泣くからね。でも、お葬式で泣いても遅いのよ。ちゃんとその前にいっぱい泣いて、喧嘩することがあっても、ご両親といっぱいお話ししておいてね」って。

確かにそれができていなかったので、以来、毎月実家に帰るようになって、そうしたいと思うようになりました。でも、いざ両親を目の前にすると、「お父さん、そろそろ年をとってきたけど、家のこととか病気のこととか気になることないの?」なんて聞けないんですよね。やっぱり、実家に帰って両親を目の前にしてどうやって聞こうかと、これはすごく難しいです。

それをツールがあれば、たとえば「もしバナゲーム(※1)」を一緒にやってみるとか、誰かに頼るとか、私にはきょうだいがいないので、誰か親戚のおばちゃんが来た時に一緒に話を聞く機会を作ってほしいな、と思ったりします。そういう家族の時間が、病気になった時に医療者が入ることで、「どんなお母さんだったんですか」「どんなふうにご家族で過ごしてきましたか」というヒントになっていくから、元気なうちからそんなふうに家族の時間を大事にしたいし、してほしいな、と思っています。私もまだできていないですけれどね。

※1…「もしバナゲーム」とは、カードを通して自分が大事だと思う価値観を考えるiACPが作成したカードゲームです。カードには、死の間際に「どのようにケアして欲しいか」「誰にそばにいてほしいか」「自分にとって何が大事か」という、人がよく口にする言葉が書いてあります】

【看取りの現場の医師と看護師から】人はいつ話せなくなるかわからない。親のためにも自分のためにも元気なうちに確認しておきたいこと柏木秀行(かしわぎ・ひでゆき)
飯塚病院 連携医療・緩和ケア科部長・地域包括ケア推進本部副本部長・筑豊地区介護予防支援センター長
1981年生まれ。2007年筑波大医学専門学群を卒後、飯塚病院にて初期研修修了。同院総合診療科を経て、現在は連携医療・緩和ケア科部長として研修医教育、診療、部門の運営に携わる。グロービス経営大学院修了。

柏木:ぼくもできてない。ACP(※2)も基本は文脈と関係性に基づいたアプローチなんです。患者さんと医療者の関係性だったら聞いてもそんな違和感ないんですよ。医師が聞けば、患者さんはいろいろ教えてくれて、「そういうことが心配なんですね」となるけれど、子どもが親に、これからの人生をどう思っているのかを聞いたら「どうしたん!?」と言われるのがオチですよ。

※2…自らが望む人生の最終段階における医療・ケアについて、前もって考え、医療・ケアチーム等と繰り返し話し合い、共有する取り組みを「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」と呼びます】

後閑:確かに。うちは母親も看護師で、食事や運動に気を使って健康意識は高いんですけれど、「あんたね、食べられなくなったら死ぬ時なんだからね。苦しいのだけ取ってくれればいいから」みたいなことを向こうから言ってくれるんです。

柏木:素晴らしいですね。うちはヘルスリテラシー低いです。