「徳」の人である
ザ・ボディショップ創業者の弱み

 両者とも明確な理念があり、世界的な経営者として大成功しました。私は実際に会ってみて、2人とも非常に強いカリスマ性を感じたことをおぼえています。

 アニータは、温暖化やフェアトレードなどの社会課題に30年以上前から取り組み、「社会変革」という明確なミッションと豊富なアイデア、そして、地球、動物、人への愛情がありました。「徳」の部分では、ハワードに勝ると感じています。

 しかし、アニータは、大きくなっていく会社の規模に対し、経営管理や財務、物流、品質管理などのスキル、いわゆる「才」の部分が若干、弱いように見えました。しかも彼女は、金融街にいるような、ピンストライプを着たMBAホルダーたちが大嫌いでした。ザ・ボディショップの創業期には、日本に輸入された商品に、品質上の問題があったと聞きます。

 経営的な行き詰まりもあり、アニータは一線から退いて、2006年にフランスに本社を置く世界最大の化粧品会社、ロレアルに買収されました(さらに2017年、ブラジルの化粧品会社のナチュレに買収)。

 彼女はその際に得た数百億円をすべて寄付しました。アニータは、ミッション通りに、社会変革を起こし、世の中に大きな影響を与えた偉大なリーダーです。世間的にも、社会貢献の部分を取り上げられることが多く、人物としても間違いなく素晴らしい。私は個人として本当に愛情あふれたアニータが大好きです。

 しかし夢を語ることも必要ですが、日々のオペレーションなど管理的な仕事を欠かすことができないビジネスにおいては、実務を進めていくスキルも大切なのです。

「才」の人であるスターバックス創業者は
「徳」も持ち合わせていた

 一方の、スターバックスの創業者ハワードは、理念も持っていましたが、ビジネスに必要な「才」も持ち合わせていました。

 スターバックスは、理念の浸透を徹底して行います。たとえば、パートナー(※スターバックスの従業員)には、「グリーンエプロンブック」という小さな冊子が全員に配布されます。そこには、手にした人が、スターバックスの一員としての存在理由を深く考えさせられるような理念が、シンプルに記載されています。ハワード自身も、社内外に対し、いかにパートナーたちが会社にとって大切な存在かをアピールしています。

 ハワードが、スターバックスのパートナーたちを大切に思い、福利厚生にも力を入れていたことは確かです。しかし、その一方で、経営が危機的状況に陥った際には、リストラにも踏み切る冷徹さも併せ持っていました。ハワードがCEOを退いた後に、スターバックスの業績が一時的に悪化しました。2008年に再びCEOとして戻ってきたときに真っ先に実施したのは、ミッションの見直しと、コーヒーのトレーニングのため全米の7100店舗を半日間、閉鎖。そして、約1800人を解雇し、最終的に約600の店舗を閉鎖するという大規模なリストラでした。

 また、彼は創業時から、自分の弱みを補完するという意味で、「財務」に強いオーリン・スミスと、「人」に強いハワード・ビーハーと共に、経営を進めていきました。

 このように、道徳や理念に沿って行動すること、つまり「徳」も、もちろん大切ですが、同時に、財務計画に照らし合わせた行動、つまり「才」の部分も必要です。リーダーには、その二面性をバランス良く持ち合わせることが求められます。