あるオリガルヒへの米制裁、「特例」で緩い訳Photo:Mikhail Svetlov/gettyimages

 米財務省がロシアのオリガルヒ(新興財閥)の実業家アリシェル・ウスマノフ氏に制裁を科した3月3日、貨物船がアラバマ州モービルに到着した。積み荷は、ミシシッピ州の製鉄所に向かう予定の5万3000トンの銑鉄(せんてつ)だった。出荷記録によると、送り主はウスマノフ氏が主な出資者となる会社の子会社だった。別の子会社はそれを運んだ船会社を所有している。

 これらは全て合法だった。

 ロシアのウクライナ侵攻後に経済制裁を科す上で、米当局は例外を設けた。ウスマノフ氏のようなオリガルヒの権益は世界経済に非常に深く織り込まれているため、彼らのビジネスを抑え込めば経済的な痛みや法的なしっぺ返しを食らうことになりかねない。財務省の現・元当局者はそう話す。

 ジャネット・イエレン財務長官はウスマノフ氏らのオリガルヒ幹部に対する制裁を発表した際、「プーチンに最も近い友人らとその家族に多大な代償を負わせ、資産を凍結することになる」と述べた。

 同時に、財務省が設けた例外は、バイデン政権の発するメッセージが示唆するよりも、こうした対象となる人物へのダメージを軽微なものにしている。

 財務省はロシアの大富豪に制裁を科す際に複雑な計算を余儀なくされている。ヨットや航空機を没収して彼らからぜいたくを奪い、新聞の見出しを飾る一方、ビジネスを凍結すれば市場の混乱を招き、彼らの企業に出資する投資家に損害を与え、多くの雇用が失われかねない。