仕事を任せる前に欠かせないこと

「1万時間の法則」という言葉が一時期注目を集めました。「何らかの分野で一流になろうと思ったら、1万時間の訓練が必要である」という主旨でしたが、賛否両論が飛び交ったようです。反対した人の意見は「とくに初学者は何を学び、何を理解すればよいのかがわからない。ただ漠然と1万時間の努力をしたところで、進歩しない」というものでした。私もその通りだと思います。

 仕事に関して言えば「この仕事の手順はこうで、その通りにすると、いつまでにどのような成果物が出来上がり、それは社内のこのような位置付けのプロジェクトにおいてこのような役に立つ」という全体像を最初に理解してもらわなければいけません。そして、丁寧に手順を教え、さらにその手順の中にあるポイントをしっかりと伝えることが必要です。そうしなければ、一生懸命頑張るけれど勘所が間違っていて成果が上がらない、という事態が起こりかねません。

 どのような説明をしながら仕事を渡すのがよいのかということは、本書でもお話ししたとおりです。テレワークでは今まで以上に仕事を頼むときに説明が求められますが、とくに新人に仕事を渡すときは注意してください。マネージャー世代は「自分で周囲を見て、自分で気付きなさい」というスタンスかもしれませんが、本書で繰り返しお話しした通り、いまの若手は手取り足取り指導されながら育ってきています。さまざまな物事の意義付けも、親や学校からしてもらってきています。まずは指導者から話し、少しずつ自分で気付けるように育てていくしかありません。

仕事をさせたら、日報でフィードバック

 OJTの期間中は、信頼関係を築くためにも日報を書かせ、トレーナーが欠かさずフィードバックするようにしましょう。オープンにして、担当トレーナーだけでなく、チームメンバーや直属の上司などの目に触れるようにしておくことも大事です。トレーナー以外の人からのコメントも書き込めるようにしておくと、新人のモチベーションアップにもつながります。

 日報に書いてもらうことは、以下のようなことです。

・その日にした仕事
・うまくいったことと、その理由
・うまくいかなかったことと、その理由
・気付いたこと、考えたこと、これから活かしたいこと

 大切なのは、自分のしたことだけでなく、それに関して振り返った結果、気付いたことを書いておくということです。これは必ず次に生きます。本訴で良いマネージャーは「メタ認知力」をもっているというお話をしました。このメタ認知力を上げるための方法が「その日の行動を振り返る」というものでしたが、これを新人時代から習慣づけられたら、大きな強みになります。

 トレーナーは、日報を見れば新人の理解度がわかるかと思います。「この程度のことしか感じていないのか」と失望することもあるでしょう。そのときには、1on1の場を設けるなどして、深い理解に至るように話し合ってみることも必要です。