大企業のイノベーションがなぜうまくいかないのか。「パーパス」視点で考えてわかったこと

これまでに経験したことのないような大きな変化に直面し、企業経営はどのように対応していけばよいのか。その解決策を「信頼(トラスト)」を軸に読み解いていく本企画。連載第2回では、最近注目されている「パーパス」の本質とメリットについて解説した。従来の「ミッション」「ビジョン」「バリュー」との最大の違いは、他ではない自社が存在する理由を突き詰めており、それが変革の礎になりうるということだ。第3回では、この変革の手法について、『パワー・オブ・トラスト』(ダイヤモンド社)から引用して紹介する。(ダイヤモンド社出版編集部)

イノベーションに欠かせない3つのポイント

 大企業のイノベーションにおいては、パーパスに立脚したうえで「次の本業」となりうるインパクトのある規模の事業創出が必須である。たとえば、日本におけるスタートアップの登竜門である東証マザーズ(2022年4月4日より市場再編)の上場基準は時価総額20億円であり、売上・利益ともにおおむね数億円が目安である。一方、大企業においては、数百億円でやっと成功といわれ、スタートアップが一般的に目指す規模とは100倍程度のギャップがある。

 テクノロジーの飛躍的な進化や消費者嗜好・価値観の急激な変化に対応する機敏さを備えながら、あくまでも大企業は、外部機会の大きさを前提とした投資領域の定義や、大企業ならではの思い切った投資・アセットの活用を通じた規模をもって、新規事業のスケールアップを図る必要がある。

 そこで必要になるのが、

(1)ビジョニング(パーパスと外部機会に基づく投資領域候補定義)
(2)ビジネスプロデュース(大企業特有のしがらみを超え、投資・アセットを活用した早期の事業立ち上げ)
(3)エコシステム(自社内外を有機的なエコシステムとして仕組み化・組織化)

 であり、これらを三位一体で推進することで、大企業にもイノベーションのためのエンジンを組み込むことができる(図表1)。

(1)ビジョニングに関しては、パーパスから具体的な事業領域を定義・可視化することが、新規事業創出の出発点となる。パーパスと事業開発との断絶を回避するためにも必要不可欠なプロセスであり、うまくつながらなければ、事業として存在意義を発揮できず、パーパスの意義すら失われてしまう。ここで定義した事業領域が、自社の進むべき方向を指し示す“羅針盤”となる。

 新規事業開発の事業領域というと、まだ市場が立ち上がっていない「おもしろい」ニッチな領域に目を向けてしまいがちであるが、大企業が目指す成功の規模に見合わず、一定期間取り組んだが具体的な成果が生み出せないまま「失敗」という結論になってしまうケースも多い。そうならないためには、事業領域を定義する際に、パーパスに適うことだけでなく、市場の魅力度に関する定量的な情報(市場規模・成長率・投資/調達規模など)により外部機会の大きさを明確に可視化し、大きな市場性・成長性が見込める領域を選ぶことが必要である。