年金の話題で「繰り下げ受給」は人気テーマの一つ。4月から75歳まで繰り下げの上限年齢が引き上げられたこともあり、例年以上に話題沸騰中だ。しかし、誰でも年金の繰り下げ受給をした方がいいわけではない。「向いている人」と「向いていない人」がいるので、試算をベースに解説しよう。(ファイナンシャルプランナー〈CFP〉、生活設計塾クルー取締役 深田晶恵)
会社員の年金を繰り下げすると
手取りは額面ほど増加しない
年金制度改正法の施行を受け、前回は『年金繰り下げ受給が4月から「75歳までOK」に!手取り額を試算してみた』と題して、75歳まで年金の受給を繰り下げた場合の試算結果をお伝えした。
受給開始年齢を「本来の65歳」「5年繰り下げて70歳」「10年繰り下げて75歳」の3ケースとし、額面収入と手取り収入について、年金額と増加率、損益分岐年齢をそれぞれ試算した。
繰り下げのメリットは、ずばり年金額の増額。額面では70歳受給開始なら42%アップ、75歳開始なら84%アップである。ところが手取りを試算してみると、額面と同じ率では増えないことが分かった。
年金収入200万円で手取りベースの増加率は、70歳受給開始の場合は31~32%前後、75歳開始なら約67%アップにとどまり、厚生労働省が言う額面の増加率より少ない。
前回、初めて「専業主婦期間が長く年金額が少ない妻」のケースを試算してみた。年金収入を基礎年金程度の78万円としたケースでは、5年繰り下げても、10年繰り下げても、所得税・住民税が非課税。年金額が少ないため社会保険料の負担も重くならない。
これにより繰り下げをした場合の手取りの増加率は、額面での増加率に近いものとなる。もともとの年金額が少ない妻は、繰り下げのメリットが大きいのだ。
試算結果の詳細は前回のコラムを参照していただくとして、今回は「繰り下げ受給に向いている人」「向いていない人」を考えてみよう。