2022年4月から公的年金の繰り下げ受給の上限年齢が「70歳から75歳まで延長」になることが話題だ。75歳まで受給を繰り下げると、「手取りベース」でいくらぐらい年金額が増えるのか。また、何歳まで長生きできたら元を取れるのか。妻を扶養している夫の試算に加えて、今回初めて専業主婦や扶養の範囲内でのパート勤務の期間が長かった妻のケースも試算してみた。(ファイナンシャルプランナー〈CFP〉、生活設計塾クルー取締役 深田晶恵)
75歳まで年金繰り下げ受給
「夫の場合」と「妻の場合」を試算
今年は年金制度改正法の施行ラッシュである。2022年4月から24年10月にかけてさまざまな改正が順次施行される。
中でも話題を集めているのは、22年4月1日施行の「公的年金の繰り下げ受給の上限年齢が70歳から75歳まで延長になる」ことだ。3月に入ってから、さまざまなメディアから取材依頼があった。
当初は「メディアだけが注目しているのだろうな」と思っていたのだが、先日、通っているジムの若いトレーナーが「両親が60代前半なんですけど、年金受け取りを75歳まで遅らせることができるようになるから、どうしようかって話していました。お得なんですか?」と聞いてきたのでちょっと驚いた。
普通に暮らしている人の食卓の話題に上るほどの関心事ならば、当コラムでも早めに書いておこうと、さっそく編集部に連絡。今回は「年金受給を75歳まで遅らせるのは、お得なのか」を「夫の場合」「妻の場合」の二つのケースの試算付きで検証してみたい。「妻の場合」の試算は、今回初公開だ。お楽しみに。
本来65歳から受け取る公的年金の受給開始を遅らせることを「年金の繰り下げ」という。繰り下げは70歳までというルールが、年金法改正により4月から75歳まで可能となる。
「繰り下げ」の仕組みについておさらいしよう。65歳からの年金の受給を遅らせると、額面の年金額は1カ月ごとに0.7%増える。例えば、受給開始を5年繰り下げて70歳にすると65歳時点での年金額の1.42倍、10年繰り下げて75歳にすると1.84倍となる。
具体的に数字で見てみよう。65歳からの年金額が年200万円のケースなら、5年繰り下げると284万円、10年繰り下げると368万円となる。1カ月ごとに0.7%増額する効果は大きい。
繰り下げのメリットは、ずばり年金額の増額。しかし、手取りベースでは額面年金額と同じ率で増えないことは絶対に知っておきたい。年金収入が増えると、社会保険料や税金の負担が増えるからだ。解説の前に試算表を見てみよう。まず、「夫」のケースから取り上げる。