5月9日に投開票が行われるフィリピンの選挙で、セルソ・ビジタシオンさん(54)はできる限り多くのマルコス候補に投票したいと考えている。大統領選でマルコス氏、議会選でもマルコス氏、知事選でもマルコス氏に一票入れるつもりだ。故フェルディナンド・マルコス氏の独裁政権時代は安定した日々が続き、無料の米袋や、時にはKLIMブランドの粉ミルク缶が配られたのを覚えている。マルコス一族は謙虚で誠実な人たちで、彼らを犯罪者呼ばわりする者はうそをついているとビジタシオンさんは言う。これはフィリピンの北イロコス州では一般的な考え方だ。同州は亡き独裁者の出身地である。「泥棒政治(クレプトクラシー)」は21年間に及んだが、民衆蜂起によって幕を閉じた。マルコス一族と取り巻きの実業家らが私腹を肥やす一方で、国を借金漬けにした実態が捜査で明らかにされた。海外の銀行口座を通じて巨額の資金をくすね、ニューヨークの高層ビルやピカソやモネの絵画を購入していた。複数の人権団体によると、1972年に戒厳令が敷かれた後、反体制派と見なされた数千人が殺害され、拷問を受けた人はさらに大勢いた。マルコス政権崩壊から30年余り経過した今、その家族が大統領の座に返り咲くかもしれない。同州は驚くべきカムバックの足がかりとなる可能性がある。