大きな目的のために
小さなこだわりを捨てる
伊賀 あくまで自分が中心で、コーチやチームの人が周りにいると捉えるか、コーチがトップにいて、下にいる自分に指示してくれると考えるのでは、全然違うということですね。
為末 そうだと思います。日本人で突き抜けている選手や海外の選手の多くは、「自分が一番になるんだ!」という目的一点のために小さいことを捨てる人が多い。
日本では、この考えが「わがまま」と言われてしまうこともあります。一蓮托生が一番良いんだっていうような。王道感というか、ストーリー性重視というか。なので日本は金メダルを取るといっても、勝ち抜いて獲ってやるぞというより、皆で取りたいっていうのが大きいですね。
伊賀 成果のほうが圧倒的に重要だから、摩擦を恐れないってことですよね。
小さい頃からプロを目指しているアスリートが、親のような年齢であるコーチの影響を受けるのは理解できますが、大きくなればコーチと選手の間にも葛藤が生まれるのは、自然なことに思えます。
為末 そうですね。より上を目指している選手は、葛藤せざるを得ないでしょう。でも、そういう選手でも、和が大事だからと言って、チームを変えることにリスクを感じている人が非常に多いのも現実です。そういった局面でも、自分の選択をしていける人のほうが、成果を出しているように思います。
伊賀 組織や仲間の和を重視するより、成果を出すことの方が大事なのだから、必要なら和を乱しても強く主張すべきってことが、なかなか受け入れられないですよね。
それと、先ほどそういう考えがアスリートの世界にも存在するとお聞きして驚いたのですが、どちらの世界でも、王道の勝ち方、きれいなあるべき論から脱却することに対して、恐れがあるってことですよね。回り込んで勝つことを逃げだと嫌って、正面突破で散る美学というか。
為末 でも実際は逃げでも何でもないんですよね。