世界大会においてトラック種目で日本人初となる2つのメダルを獲得した、侍ハードラー・為末大氏。華やかなキャリアと思われた彼の競技人生は、意外にも「下り坂」だったという。限界、心のハードル、さまざまなものを乗り越え、行き着いた先は…。これからのビジネスパーソンにも通じるテーマについて、赤裸々に語る。
トップアスリートとしての25年
為末大氏 (撮影:公文健太郎)
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世界大会において、トラック種目(400メートルハードル)で日本人初となる2つのメダルを獲得し、3大会連続オリンピックに出場した陸上選手。
男子400メートルハードルの日本記録保持者(2012年10月末日現在)。
僕はアスリートとして、このように紹介されることが多かった。
2012年夏、25年の競技人生に幕を閉じたが、この、長いようで短い競技人生は、今振り返れば、決して華やかなものとは言い切れない。
勝ってきたというよりも、必死で生き抜いてきたという感じ。
さまざまな局面で問題やスランプに直面し、もがき苦しみ、時には右往左往しながら、どうにか前を向いて進んでいく。そんな四半世紀だった。
下り坂の競技人生
「30代の競技生活は、ゆるやかな下り坂でした」
こういうことを臆せず口にするアスリートは少ないのかもしれない。だが僕の中では実感としてあるのだ。
競技者としての僕のピークは、自分が思い描いていたよりも早く、28、29歳だった。その後は、「成績が落ち続けていくだろうな」と感じながらの毎日だった。
とりわけ引退を決めるまでの3年間、いやアスリートとしての30代は、まさに「下り坂の競技人生」をひたすら歩いてきたという実感である。
かつてあった栄光や勝利を、「下り坂の競技人生」の中で日に日に失っていくことは、不思議な経験だった。それは「老い」の感覚と非常に近いような気がする。