幸村を討て,真田幸村,今村翔吾Photo:PIXTA

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

『幸村を討て』は、直木賞作家・今村翔吾さんの著書。戦国時代最後の戦い、「大坂の陣」を舞台に、真田一族、徳川家康、毛利勝永ら戦国武将たち、それぞれの思惑を描く。登場人物たちの躍動感あふれる会話や動きから、武将たちの人物像や時代の空気が立ち上がる。「大きな流れは事前に決めるが、プロットは書かない」と今村さん。「セリフは、出たとこ勝負。瞬時の判断の連続のため、僕にとってはまるで戦です」。今村さんに、同書にかける思いを聞いた。

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今村翔吾いまむら・しょうご/1984年、京都府生まれ。滋賀県在住。2017年に『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』で作家デビュー。『八本目の槍』(19年)で吉川英治文学新人賞、『塞王の楯』(21年)で直木賞を受賞(Photo:写真映像部・戸嶋日菜乃)

 今村翔吾さん(37)が初めて歴史小説を手に取ったのは、小学5年のとき。池波正太郎さんの『真田太平記』に魅了され、以来、歴史小説の虜になった。なかでも、真田幸村の兄、信之は数多の武将のなかでも思い入れの強い人物だ。

 今年1月、『塞王(さいおう)の楯(たて)』で直木賞を受賞した今村さんの最新作『幸村を討て』の根底にあるのは、そんな真田家の“秘められた家族の物語”だ。幸村は、家康を追い詰めたことで名をあげた武将だが、幸村の冒険譚を想像し読み進めると、不意打ちを食らう。

「幸村小説のなかで、最も早く幸村を死なせてやろうと思った」と今村さんが言う通り、幸村は序盤であっけなく姿を消す。そもそも「幸村」とは、いったい何者なのか。織田有楽斎、後藤又兵衛、伊達政宗ら6人の視点から、それぞれの幸村、そして真田家が浮かび上がる。

「真田家って、“家族っぽいな”と思う。これは、家康や信長の家からは感じられないもの」と、今村さんは言う。