『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』はなぜ、本書はこれほど多くの人をひきつけているのか。この本を推してくれたキーパーソンへのインタビューで、その裏側に迫る。
今回インタビューしたのは、『はじめてでも「使える英語」が身につく! 英語復文勉強法などの著者で、大手予備校英語講師の田中健一さん。「英語の独学」について、効果的な方法を語ってもらった。(取材・構成/編集部)

英語ができる人とできない人「勉強のやり方」に現れる差Photo: Adobe Stock

「紙に書き出さない」生徒は伸びない

──田中先生は英語講師になる前に、英語以外にも様々な教科の指導歴があると聞きました。これまでの経験から、勉強で最も重要だと感じていらっしゃることは何でしょうか?

田中健一(以下、田中):中学受験塾で算数・理科を指導したのがプロ講師としてのデビューで、その後は大学受験予備校で現代社会・倫理の講師になり、翌年からは数学・物理を兼任するようになりました。当時は依頼された仕事はすべて引き受ける方針だったので、このように文系理系問わず、複数科目を指導する状況になっていました。この間、高校で世界史を担当したり、大学で公務員・教員採用試験対策講座を受け持ったりしていました。

 英語講師を始めたのは15年くらい前ですね、確か。どの教科の指導でも痛感してきたのは、答え合わせの重要性です。答え合わせをきちんとできない生徒は伸びません。

 答え合わせをするために不可欠なのが「答案を紙に書き出す」ことです。紙に書き出さず頭の中だけで勉強しようとすると、正確な答え合わせができません。記号問題なら可能ですが、記述問題ではとても無理です。答案を頭の中に保持しつつ、解答を見て照合するのは不可能と言っていいでしょう。自分の内側の思考をいったん外に出して、それを客観的に採点することが必要なのです。

──英語の勉強でも、紙に書き出すことが大事なのでしょうか。

田中:はい、その通りです。以前に流行った「聞き流すだけ」は論外ですが、誤りを指摘してくれる指導者不在のスピーキング練習にもあまり意味がありません。また、評判の本を「読むだけ」でできるようになる人は一握りの天才に限られるでしょう。

英語独学の最強の武器「復文」とは何か?

 私が推している勉強法に「復文」というものがあります。読書猿さんも推奨している勉強法で、これが実に独学者向きの学習法なのです。

「復文」を簡単に説明すると、次のような流れです。

① 英文を日本語に訳して、答え合わせ
② 日本語を見て元の英文を「復元」して答え合わせ

 これだけです。非常にシンプルな、そしてシンプルだからこそ継続できて、多くの人におすすめできる英語独学法です。しつこいようですが、重要なのは「実際に紙に書き出すこと」です。頭の中だけで済ませてはいけません。紙とペンを用意してください。

「復文」はもともとは漢文の学習法で、古田島洋介『これならわかる復文の要領―漢文学習の裏技―』(新典社)にはこうあります。

復文は、書き下し文から漢文の原文を復元する学習法です。漢文に熟達するための捷径つまり早道として、江戸時代は元禄元年(1688)ごろから少なくとも戦前すなわち昭和二十年(1945)まで、ざっと二百六十年間にわたって活用されていた学習法です。教科や分野を問わず、また一般人か専門家かを問わず、能率がよく効果の高い学習法が歓迎されるのは、今日でも当然のことでしょう。けれども、復文という学習法は、戦後(1945-)漢文教育が衰退してゆくとともに、その著しい有効性にもかかわらず、水準の高すぎる学習法として学校教育の現場で禁止され、しだいに消え失せてしまったのです。今や、大半の方々にとって、復文という語そのものすら耳遠くなっているに違いありますまい。

──英語の独学者の場合、具体的にはどのようにやるのか、例を教えてください。

田中:「復文」はまず、英文とその日本語訳(翻訳)を用意してください。紙とペンも忘れずに。

 第1段階では英文を見て日本語に訳します。頭の中だけでは済ませてはいけません。紙に書き出して、答え合わせをするのです。この時、間違いがあれば必ず赤ペンで修正してください。消しゴムで消して修正するのは絶対にやめてください。紙に書き出して、赤ペンで答え合わせ。これが大切です。

英語ができる人とできない人「勉強のやり方」に現れる差

 そして今度は日本語訳を見て元の英文を復元します。思い出せないところは空けておいて構いません。ついさっきみたばかりなのに思い出せない箇所は、自分が本当にはわかっていない部分や覚えていない部分である可能性が高いです。

英語ができる人とできない人「勉強のやり方」に現れる差

 勉強で重要なのは、自分の弱点を可視化して、これを克服することです。この意味で、問題演習は間違えるためにやるものだと言ってもいいでしょう。私はよく、授業でこう言います。「間違いは伸びしろだよ」。間違いは直面するべき課題であり、成長のための過程なのです。

 映像を見ているだけ、名著を読んでいるだけでは進歩できないのは、これが理由です。問題を解く。答え合わせをする。それによって発見できたウィークポイントを克服していく――これが勉強です。何度も何度もくり返して申し訳ありませんが、この過程で必須なのが、「手を動かし、紙に書き出すこと」なのです。

「記録して残す」と成長できる

──実際、「復文」をやってみた生徒さんからの反応はありますか?

「復文」を『独学大全』と組み合わせて苦手な英語が得意になったといううれしい報告がありました。私がここまでお話したことと、『独学大全』の技法12「ラーニングログ」を組み合わせて日々の学習に取り組んだとのことです。

 その方は「復文」したものを「ログ」として保存し、定期的に見返しました。

『独学大全』にも「その日の終わり、週・月の終わりなど、節目節目に記録を読み返す。時間的に近い最近の記録からも、何ヵ月または何年も経った古い記録からも、驚くほど多くの発見と、学習への意欲が得られる」とありますが、まさにそれを実践したのです。

 この効果は進捗の管理だけではありませんでした。答え合わせをして赤字で直したところを分析した結果、自分の苦手分野が可視化され、その「穴」を埋めていくことで日々成長が実感できたのです。試験の点数も着実にアップしました。

「以前は動詞の時制をよく間違えていたが、だんだんそれは減ってきた。けれども冠詞のミスは今でもまだまだ減っていないな」などと分析できるのは、頭の中を紙に書き出し、赤ペンで修正し、「ログ」として保存していたおかげです。

 頑張って勉強しているつもりなのになかなか成果が出ない人は、

・手を動かして書き出す
・答え合わせをする
・記録を残して分析する

 を取り入れてみることをおすすめします。

田中健一(たなか・けんいち)
大手予備校英語講師
1976年・愛知県生まれ。愛知県立明和高等学校、大阪大学文学部(西洋史)卒。名古屋大学文学部(言語学)中退。著書『はじめてでも「使える英語」が身につく! 英語復文勉強法』『英文法基礎10題ドリル』『英文法入門10題ドリル』『英文読解入門10題ドリル』は全国の中学・高校だけでなく大学でも採用されている。近年では予備校だけではなく、YouTubeやオンラインサロンなどでも英語学習に役立つ情報を提供している。