「血液型は何型ですか?」。何気なくしてしまいがちな質問だが、そもそも自分の血液型を知っていることの意味はない。むしろ他人にむやみに明かすべきものではない……といえば、驚く人も多いのではないだろうか。
『すばらしい人体』では、自分たちの身体が持つすばらしい機能を学べるとともに、風説に惑わされない「正しい医療知識」を身につけることができる。しかし、血液型は輸血に置いても重要な情報なはず。「知る必要がない」とは一体どういうことなのだろうか。
ブログ累計1000万PV超、Twitter(外科医けいゆう)アカウント9万人超のフォロワーを持つ著者の山本健人氏に「血液型にまつわる思い込み」について解説してもらった。(取材・構成:真山知幸)
医学的な意味はない
――私は子どもが3人いるのですが、長男の血液型しかまだ調べてなくて。みんなの分も調べておかないとなあ、と思っていたのですが、『すばらしい人体』を読んで「え!」と驚きました。自分の血液型って知らなくてもいいんですか?
山本健人(以下、山本):自分の血液型を把握している意味は医学的にはほぼないと思います。「血液型を知っておかないと、輸血を受けるときに困る」という誤解が多いようですが、医療現場で本人に血液型を尋ねることはまずありません。毎回きちんと採血して血液型を確認してから、輸血を行います。
自己申告に頼るのは危険
――でも「私の血液型はB型です!」というふうに、すぐに言えたほうが、緊急時の輸血にも対応してもらえるのではないですか。
山本:もし、間違えた型の血液製剤を輸血してしまうと、命にかかわる大事故になり、それこそ緊急事態です。本人の記憶に頼って輸血を行うのは、リスクがあまりに高いので、採血を行って血液型を確実に明らかにしてから輸血するという流れになります。
そもそも、多くの人は生まれて間もない頃に測定した血液型を「自分の血液型」だと信じていますが、この時期の検査は不正確になりやすいことが知られているんです。「ずっとA型だと思っていたけど、大人になって調べたら違った」というようなことも実際にあることですから。
日本人は自分の血液型を知っている人が非常に多いので「知っておかないと困るんじゃないか」と勘違いしがちです。でも、患者の血液型が必要となるのは輸血のときなど限られた場面だけで、その際は採血の結果を参照します。今は自分の子の血液型を知らない人が多いと思いますが、それで何か困ることはありませんのでご安心くださればと思います。
小児科の先生の記事もご参照ください。
性格とは関連なし
――自分の血液型を知ったところで、せいぜい「血液型占い」を楽しめる程度なんですね……。
山本:日本人がこれだけ自分の血液型を知っているのは、血液型による性格診断の影響でしょうね。ただ、血液型は赤血球の表面にある抗原と血清に含まれる抗体のタイプで分類したものですから、性格に関連しようがないかなと……。
医療者から見れば、血液型は血液検査からしか得られない、極めてパーソナルな医療情報です。それを自分で把握しているだけならまだしも、友人や上司などにまで知られているというのは結構、空恐ろしいことだなと思っています。だって、他人の尿酸値とか知らないじゃないですか。
気をつけたいこと
2010年、京都大学医学部卒業。博士(医学)外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。Twitter(外科医けいゆう)アカウント、フォロワーもうすぐ10万人。著書に16万部突破のベストセラー『すばらしい人体』(ダイヤモンド社)など。
――「血液型は何だっけ?」という話題は違和感がないですが、「あなたの尿酸値いくつだっけ?」っていきなり聞くのと同じことなのか……。「お前は大雑把な性格だから、中性脂肪が高いだろ?」とも言いませんものね。
山本:日本にはなぜか血液型だけはオープンにする風潮がありますが、センシティブな個人情報ですよね。気軽に聞くべきものでも、話すべきものでもないのかなと。
最近は「ブラッドタイプ・ハラスメント」(略称ブラハラ、英:blood-type harassment)という言葉も出てきて「血液型を理由にして行われる嫌がらせ」が問題視されているようですが…。
「善意」によるトラブル
――『すばらしい人体』では人体が持つ優れた機能を知ることができてなんだかうれしくなってしまうのですが、その一方で「正しい医療情報を身につけてほしい」という先生の切なる思いも込められているように思います。
山本:例えば、がんになった患者さんが、知人から高額な健康食品やサプリメントを勧められ、困ってしまうケースはよく見聞きします。食品によってがんが治ることはありません。
良かれと思って行った行為でも、その背景に十分な知識がないと、かえってその善意が患者さんを傷つけてしまうことがあるんです。そういう意味でも、医学に関する情報は私たちの生活に密接にかかわっているんですね。
自分や周囲の人が病気になったとき、慌てず騒がず、適した態度がとれるかどうか。それは普段からどんな医療情報に触れているかにかかっています。
『すばらしい人体』が医療情報リテラシーを磨くきっかけになればと思います。