唾液はどこから出ているのか?、目の動きをコントロールする不思議な力、人が死ぬ最大の要因、おならはなにでできているか?、「深部感覚」はすごい…。人体の構造は、美しくてよくできている――。外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、Twitter(外科医けいゆう)アカウント9万人超のフォロワーを持つ著者が、人体の知識、医学の偉人の物語、ウイルスや細菌の発見やワクチン開発のエピソード、現代医療にまつわる意外な常識などを紹介し、人体の面白さ、医学の奥深さを伝える『すばらしい人体』が発刊された。坂井建雄氏(解剖学者、順天堂大学教授)「まだまだ人体は謎だらけである。本書は、人体と医学についてのさまざまな知見について、魅力的な話題を提供しながら読者を奥深い世界へと導く」と絶賛されている。今回は、著者が書き下ろした原稿をお届けする。

【外科医が教える】脳、胸、腹、腸、腰…。人体の漢字に「月」がやたらと多いワケとは?Photo: Adobe Stock

漢字のふしぎ

 胸、腹、脳、腕、腸、腰、膝、骨、肺、肘、肩…体に関連する漢字は、ほとんどが「月」を持つ。医学の教科書を開き、そこに並んだ漢字を眺めれば、おびただしいほどの「月」を観察することができる。

 例えば、「腹腔動脈(ふくくうどうみゃく)」という名前の血管がある。この単語は、4文字中3文字が「月」を含む。ちなみに腹腔動脈とは、胃や肝臓、膵臓、脾臓などの腹部の臓器に血液を送る、太い重要な動脈だ。

 いま、「ちなみに腹腔動脈とは、胃や肝臓、膵臓、脾臓などの腹腔内の臓器に血液を送る、太い重要な動脈だ」という一文を書いたが、この文中に「月」は14回登場する。

 恐るべき数である。

 また病気の名前も、「月」を含むものばかりだ。例えば「胆嚢腺筋腫(たんのうせんきんしゅ)」は5分の4が「月」であるし、「髄膜腫(ずいまくしゅ)」や「胸腺腫(きょうせんしゅ)」に至っては全て「月」を含む、すなわち「月」含有率100%である。

おびただしい数の「月」

 私たち医師は、学生時代から今に至るまで、病名や臓器名などの医学用語を何度も繰り返し書いてきた。思えば、カルテや紹介状を書くたび、おびただしい数の「月」を日々、綴っているのである。

 そういうわけで、医学を専門とする私たちは、夜空に浮かぶ月を見上げるたび、医学という学問に思いを巡らす―。というのはもちろん冗談である。

 体に関連する漢字が持つ「月」という部首は「にくづき」と呼ばれ、空に浮かぶ「月」とは関連がない。この「月」は、「肉」という文字に由来するからだ(※1)。「肉」が漢字の「へん」として用いられる際に、「月」と似た形に変化したのである。

 まさに、「肉体」に関連する漢字に「肉」が含まれる、という納得の理由があるのだ。

【参考文献】(1)「日本漢字能力検定協会(https://www.kanken.or.jp/kanken/trivia/category01/160901.html)」

(※本原稿はダイヤモンド・オンラインのための書き下ろしです)