ベストセラー『競争優位の終焉』の著者で、NYのコロンビア大学ビジネススクール教授であるリタ・マグレイス氏。「世界の経営思想家トップ50」の常連であり、2021年にはトップ2に選ばれた。競争優位とイノベーションの権威である同教授は、日本企業をどう見ているのか? 日本企業がポストコロナ時代を乗り切るには? パーパスやESG、従業員のウェルビーイングに無頓着な企業の末路は? リスクをチャンスに変える企業の特徴は? 落ち着いた口調と冷静な分析が印象的な経営学者、マグレイス氏が日本企業のリスクと強みを語る。(聞き手/ニューヨーク在住ジャーナリスト 肥田美佐子)
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ダイバーシティが欠如する企業は
現地市場の顧客のニーズを理解しにくい
(リタ・ギュンター・マグレイス)
コロンビア大学ビジネススクール教授。不確実性の高い事業環境における経営戦略を研究する傍ら、米国の代表的企業に対するコンサルティングを行う。単著論文の集大成として出版された『How to Keep Your Strategy Moving As Fast As Your Business』(『競争優位の終焉――市場の変化に合わせて、戦略を動かし続ける』、日本経済新聞出版)がベストセラーに。2021年、「経営思想界のアカデミー賞」とも称される、世界の経営思想家ランキング「Thinkers 50」(隔年発表)において、2位に選出。
Photo Courtesy of Rita Gunther McGrath
――(前編から)大きな変化が到来する「変曲点」を事前に見いだせるかどうかで企業の命運が決まる、ということですが、教授の目から見て、存続が危ぶまれる日本企業はありますか?
リタ・マグレイス(以下、マグレイス) 日本の金融システムに照らしてみると、企業は、自社の意思決定が引き起こす最悪の結果から守られることが多いように見えます。
とはいえ、日本企業は大きな問題を抱えています。それは、スピードが非常に重要な時代にあって、(意思決定などの)動きが遅いことです。
また、意思決定グループにダイバーシティ(多様性)がない点も、最も大きな問題の1つです。日本企業では、依然として、女性や日本文化に属していないアウトサイダーが発言権を持つのは至難の業でしょう?
意思決定者が日本人男性ばかりでは、例えば中南米やアフリカで製品を売ろうと思っても、まったくお門違いの品ぞろえになってしまいます。ダイバーシティの欠如により、多くの日本企業は、海外市場において現地の顧客のニーズを理解しにくいという、多大なリスクを抱えています。
一方、日本企業には強みもあります。