Rita Headshot Leaves「従来の企業戦略はもはや通用しない」 Photo Courtesy of Rita Gunther McGrath

ベストセラー『競争優位の終焉』の著者で、NYのコロンビア大学ビジネススクール教授であるリタ・マグレイス氏。「世界の経営思想家トップ50」の常連であり、2021年にはトップ2に選ばれた。競争優位とイノベーションの権威であるマグレイス教授は、『Seeing Around Corners: How to Spot Inflection Points in Business Before They Happen』(『曲がり角の先を見通す――ビジネスの変曲点を事前に見いだす』未邦訳、2019)の中で、企業の命運は「変曲点」を予見できるかどうかにかかっていると指摘。変曲点を見損なうと「破滅的結末」を迎える、と警告する同教授に話を聞いた。(聞き手/ニューヨーク在住ジャーナリスト 肥田美佐子)

「曲がり角の先」を見通せるリーダーだけが
現代の市場で成功を手にできる

――教授のベストセラー『競争優位の終焉――市場の変化に合わせて、戦略を動かし続ける』(日本経済新聞出版)の原書が出版されてから約9年。テック企業による既存の業界の「破壊」やパンデミックによって、企業を取り巻く環境は過酷さを増しています。

 2019年9月に上梓した『Seeing Around Corners』(『曲がり角の先を見通す』/未邦訳。企業におけるイノベーション研究における第一人者、故・クリステンセン教授が序章を担当した)では、「変曲点」が訪れる前にそれを予見し、その破壊的影響力を生かして自社の戦略的優位を築くことの重要性を、あなたは説いていますね。

ritaRita Gunther McGrath(リタ・ギュンター・マグレイス)
コロンビア大学ビジネススクール教授。不確実性の高い事業環境における経営戦略を研究する傍ら、米国の代表的企業に対するコンサルティングを行う。単著論文の集大成として出版された『How to Keep Your Strategy Moving As Fast As Your Business』(『競争優位の終焉――市場の変化に合わせて、戦略を動かし続ける』、日本経済新聞出版)がベストセラーに。2021年、「経営思想界のアカデミー賞」とも称される、世界の経営思想家ランキング「Thinkers 50」(隔年発表)において、2位に選出。 Photo by Matthew Septimus

 この変曲点を見いだせるかどうかで、米アマゾン・ドット・コムや米ネットフリックスのように、既存の業界を「破壊」する企業になれるかどうかが決まる、と。変曲点を見いだせなければ、2010年に経営破綻した米ビデオレンタル大手・ブロックバスターのように「破滅的結末」を迎えることになると、あなたは警告しています。「曲がり角の先」を見通せるリーダーだけが、現代の市場で成功を手にできる、と。

 ずばり、絶滅しそうな企業の特徴とは何でしょうか?

リタ・マグレイス(以下、マグレイス) まず、「変曲点」とは、それまで当然だと思っていた状況が変化し、10倍の影響力を生み出すような大変革が起こる転換点のことです。長期的視野に立った投資に二の足を踏み、短期的視野でしか物事を見ていない企業は、変曲点に気づくことができません。

 短期的視野が引き起こす弊害は2つ。まず、市場に出せるようなイノベーションを起こせないこと。次に、短期的視野に立った、間違っている前提に基づく投資決定を招くことです。苦境に陥っている企業は、代案を検討する時間を惜しむものです。

 その典型的な例が、米ゼネラル・エレクトリック(GE)です。同社はかつて世界で最も称賛される企業でしたが、四半期ごとの決算を超えた視点に欠けていました。

 GEは2015年11月、フランスの重電大手・アルストムのエネルギー事業を買収しました。向こう20年間は、再生エネルギーがコスト競争力のあるエネルギー源にはならないという見通しを立て、化石燃料がエネルギー源として持ちこたえられるという、誤った前提に賭けたのです。世界中の発電所にサービスを提供するというアイデアに基づく、大規模な買収でした。

 ところが、GEの見立ては外れ、再生エネルギーの価格は下がり、気候変動対策が一大問題になりました。これは、企業が、到来する「変曲点」を見損なった代表例です。

 次に、メディア企業を例に取りましょう。