「話題の作品を多く見ようとすれば、倍速視聴で時短をする必要があります。特に、現代の若者の多くはたくさんのLINEグループに属しており、そこでは日々さまざまな作品が話題になる。それらに乗り遅れないためには、倍速でこなすしかない。当然、駄作を見ている暇などありません。だから、事前にどういう内容かを調べてから見る“ネタバレ”視聴も促進されます」

 さらに、セリフで心情や状況を説明する作品が増えているため、倍速で登場人物のしゃべりや字幕だけを追えば問題ないという視聴者もいる。彼らはセリフのないシーンや風景だけが映されているようなシーンは、10秒スキップなどを駆使してどんどん飛ばす。

「映画を楽しむこと」よりも「内容を確認すること」を優先する――。そこには、一昔前とは比べ物にならない現代人の時間へのシビアさも関係している。

「昔は働けば働くほど給料が上がっていましたが、今はそうではありません。ゆえに、残業しても無駄です。むしろ本業を早く切り上げ、副業に時間を費やすことが推奨される社会になりました。大学生の場合、バイトで学費を稼ぐ人も多く、インターンやボランティアにも時間を取られます。ビジネス書や自己啓発書では徹底的に無駄を省くことが良しとされ、手帳の空白を埋めたがる人も多くいます。現代人は非常に時間にシビアであり、時間を無駄にできないという意識が強い。時短できるものはなるべく時短したいと考えるのです」

「鑑賞する映画」から
「消費する映画」へシフト

 倍速視聴の広がりは、映像作品が「鑑賞するもの」から「消費するもの」へシフトしていることの表れだと稲田氏は指摘する。

「鑑賞とは作品に没頭し、ただ味わうことだと思います。作品の長さには作り手の意図があるはずで、その時間を費やさなければ得られない滋味や浸れない感情もある。一方、『話題についていきたい』『会話のネタにしたい』など実利的な目的の人たちは、『情報を2倍の速さで処理できれば、倍速でも同じように味わえるはずだ』と信じている。速読と同じような感覚なのです」

 こうした倍速視聴は、今後さらに増える傾向になると稲田氏は予測する。

 客のニーズや習慣が変化すれば、多くの供給側はそれに対応せざるを得ない。供給側にはどのような変化が求められるのだろうか。